「事実無根の主張で裁判を起こされた」など、企業活動を行っていると、このような言いがかりとも思えるトラブルに巻き込まれることがあります。
特に近年では、パワハラや不当解雇、契約トラブルなどを理由に、企業側が訴えられるケースが増加しているようです。中には、正当な業務指示や契約に基づく対応であったにもかかわらず、「精神的苦痛を受けた」「不当な扱いを受けた」などと主張され、法的手続きに発展する例も少なくありません。
しかし、「明らかに事実無根だから問題ない」「相手が感情的になっているだけだろう」と軽く考えてしまうのは非常に危険です。訴訟や労働審判は、主張の正当性だけでなく、初動対応の仕方や証拠の出し方によって結果が大きく左右されます。対応を誤れば、本来負う必要のない責任を負わされてしまう可能性もあります。
また、近年では嫌がらせ目的で訴訟を提起する「スラップ訴訟(SLAPP)」が問題視されるようになっており、企業側もそのリスクを正しく理解しておく必要があります。
今回は、言いがかりで訴えられた場合に企業が直面するリスクや、訴えられた直後に取るべき対応、スラップ訴訟との向き合い方、弁護士に依頼すべきタイミングなどについてベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
一見すると事実無根に思える主張であっても、訴訟や労働審判を起こされれば企業は正式な法的対応を求められます。「言いがかりだから問題ない」と軽視すると、かえって不利な結果を招くおそれがあります。以下では、言いがかりであっても企業が直面し得る法的リスクについて整理します。
「相手の主張は明らかにおかしい」「事実ではないのだから無視しても問題ない」と考えてしまう気持ちは自然ですが、訴訟においては非常に危険な判断です。
裁判や労働審判では、当事者の一方が対応しなければ、裁判所は提出された資料のみを基に結論を下します。その結果、反論の機会を失い、不利な内容で判決や決定が出てしまう可能性があるため、しっかりと対応しなくてはなりません。
また、初動対応が遅れることで、
といったリスクも高まります。
たとえ言いがかりであっても、「訴えられた以上は対応が必要」という認識を持つことが、企業を守る第一歩です。
言いがかりによる訴訟は、特定の立場の人だけが起こすものではありません。実際には、以下のようにさまざまな相手から提起される可能性があります。
企業としては正当な対応をしていたつもりでも、相手が不満を募らせた結果、法的手段に訴えるケースは珍しくありません。
特に労務や契約に関するトラブルは、評価が分かれやすく、「どちらが完全に正しい」と断言しづらい領域です。そのため、言いがかりに見えても訴訟リスクとして無視できません。
企業が巻き込まれやすい「言いがかり型トラブル」には、以下のようなものがあります。
これらは、証拠の評価や事実認定によって結論が大きく左右されやすく、「言いがかりかどうか」が単純に判断できない点が特徴です。また、相手が強い不満や敵意を抱いている場合には、嫌がらせ目的で訴訟を提起する、いわゆるスラップ訴訟(SLAPP)に近いケースとなることもあります。
そのため、企業としては感情論で対応するのではなく、「法的リスクとしてどう対処するか」という視点で冷静に判断することが重要です。
言いがかりで訴えられたとしても、企業としては冷静かつ迅速に対応する必要があります。初動対応を誤ると、本来は回避できた不利な結果を招くこともありますので注意が必要です。以下では、訴えられた直後に企業が取るべき基本的な対応を説明します。
訴状や申立書を受け取ったときは、届いた書類の内容を正確に確認することが重要です。
内容を確認することなく感情的になって相手を非難したり、放置したりすることは避けなければなりません。
特に確認すべきポイントは、以下のとおりです。
期限を過ぎてしまうと、反論の機会を失い、不利な判断が下されるおそれがあります。
内容が理解しづらい場合でも、「後で確認しよう」と放置せず、早めに弁護士へ相談することが重要です。
次に、社内で事実関係の整理を行います。この段階では、誰が悪いかを決めることよりも、客観的な事実を正確に把握することが重要です。
具体的には、以下のような点を確認しましょう。
ヒアリングは、できるだけ冷静かつ中立的に行うことが重要です。
事実関係を裏付ける証拠の整理も重要なポイントです。具体的には、以下のような資料が証拠となり得ます。
ここで注意すべきなのは、証拠の改ざんや削除をしないことです。たとえこちら側にとって不利に見える内容であっても、意図的な削除や隠蔽は重大な不利益につながります。
言いがかりのような訴えを受けた場合、「これは嫌がらせではないか」「スラップ訴訟ではないか」と感じる企業も少なくありません。しかし、スラップ訴訟という言葉を安易に使うことには注意が必要です。以下では、スラップ訴訟の考え方と企業としてどのように向き合うべきかを説明します。
スラップ訴訟(SLAPP:Strategic Lawsuit Against Public Participation)とは、相手を威圧したり、精神的・経済的な負担を与えることを目的として提起される訴訟を指します。
スラップ訴訟の目的は、権利救済ではなく、相手を黙らせる、行動を萎縮させる、交渉を有利に進めるといった点にあるのが特徴です。
企業が相手の場合でも、会社への不満や報復感情、金銭的圧力をかけたいという動機から訴訟が起こされることがあり、訴えそのものが「紛争解決」ではなく「圧力」を目的としているケースも少なくありません。
一般的に、以下のような事情が重なる場合、スラップ訴訟の可能性があります。
ただし、スラップ訴訟かどうかは最終的に裁判所が判断するものであり、「スラップだ」と主張すれば必ず認められるわけではありません。また憲法32条でも裁判を受ける権利が認められているように、裁判に訴えることは原則自由です。そのため、あまりに逸脱した、訴訟に訴える実態がなく目的においても悪質な場合にのみ、訴訟提起自体を違法と評価するのが現在の裁判所の姿勢です。そのため、感情的に反発するのではなく、法的観点から冷静に整理する姿勢が重要です。
言いがかりに対して、「徹底的に反論してやる」「相手を訴え返す」と考える企業もあります。
しかし、訴訟は、長期化すればするほど、時間的・経済的な負担が大きくなります。
重要なのは、「勝つこと」よりも、どのように訴訟を終結させるかという視点です。
状況によっては、
といった戦略的判断が求められます。
そのためには、感情論ではなく、法的リスクと実務上の影響を踏まえた判断が不可欠です。
弁護士の助言を受けながら、企業にとってもっとも合理的な着地点を見極めることが重要になります。
言いがかりによる訴訟であっても、対応を誤れば企業に大きな負担やリスクが生じます。そのため、訴訟対応はできるだけ早い段階で弁護士に相談し、戦略的に進めることが重要です。以下では、弁護士に依頼すべきタイミングとそのメリットについて説明します。
訴訟対応では、初動の判断がその後の流れを大きく左右します。訴状を受け取ってから時間が経ってしまうと、反論の方向性が限定されたり、不利な状況で手続きを進めざるを得なくなったりすることがあります。
特に、以下のような場面では早期の相談が重要です。
早い段階で弁護士が関与すれば、証拠の整理や主張の組み立てを適切に行うことができ、不要なリスクを避けることにつながります。
訴訟対応は、想像以上に時間と労力を要します。書面の作成、裁判所とのやり取り、相手方との交渉などをすべて社内で対応しようとすると、通常業務に大きな支障が出てしまいます。
弁護士に依頼することで、
といったメリットがあります。
言いがかりの訴訟であっても、感情的に対抗すれば長期化するおそれがあります。重要なのは、「勝ち負け」だけでなく、「どのように終わらせるか」という視点です。
弁護士が関与することで、争点を整理し、不要な対立を避けながら、早期解決や合理的な和解を目指すことが可能になります。場合によっては、毅然とした姿勢で争うべきケースもありますが、その判断も弁護士の視点が不可欠です。勝訴が取れる場合でも、控訴されれば裁判は続いてしまうため、勝ち方も重要になってきます。
企業にとってもっとも負担の少ない形で問題を収束させるためにも、早い段階で弁護士と連携することが重要といえるでしょう。
言いがかりによる訴訟は、どの企業にも起こり得るリスクです。事実無根であっても、対応を誤れば不利な結果につながるおそれがあります。重要なのは、感情的に反応するのではなく、早い段階で状況を整理し、専門家の助言を受けながら冷静に対応することです。
ベリーベスト法律事務所では、企業法務や労務トラブルに関する豊富な経験をいかし、訴訟対応から予防的なアドバイスまで幅広くサポートしています。顧問契約による継続的な支援も可能ですので、少しでも不安を感じた場合は、早めにご相談ください。
2025年4月1日、「物流効率化法」(正式名称:物資の流通の効率化に関する法律)が施行されました。この法律は、トラックドライバーの時間外労働規制強化(いわゆる2024年問題)による物流停滞を防ぐため…
契約を締結する際には、その内容をまとめた契約書を取り交わすことが大切です。契約書を作ることにより、当事者間の合意の内容が明確化されてトラブルの予防につながります。契約書を作成するに当たっては、弁護士…
令和6年11月1日に施行された「フリーランス法」(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、フリーランスを保護するための初めての包括的な法律です。これに対し、令和8年1月1日に施行された「…