「急な値下げを求められた」
「追加作業を頼まれたのに費用を払ってもらえない」
発注者が優位な立場を利用して、受注者に一方的な不利益を押し付ける行為は、一般に「下請けいじめ」と呼ばれます。令和8年1月に施行された取適法(中小受託取引適正化法)は、こうした行為を11項目にわたって禁止しており、違反すると行政による勧告や改善措置の対象となることがあります。
本記事では、下請けいじめとはどのような行為を指すのか、禁止されている行為と公正取引委員会の勧告事例、被害を受けたときの対処法や相談先を、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
「下請けいじめ」とは、発注者が取引上の優位な立場を利用し、受注者に不利な取引条件や過度な負担を一方的に押し付け、その利益を不当に害する行為をいいます。
たとえば、代金の支払いを遅らせる、納品後に一方的に代金を減額する、追加作業を無償で求めるといった行為が典型例です。受注者としては、「断れば今後の取引がなくなるかもしれない」と考え、不当な要求でも受け入れてしまうケースも見受けられます。
法律上、「下請けいじめ」という名称の規定があるわけではありません。
しかし、こうした行為は取適法(正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」、通称中小受託取引適正化法)で禁止されており、違反した発注者は公正取引委員会、中小企業庁長官などから勧告や公表などの措置を受ける可能性があります。勧告に従わない場合には、命令が行われることもあります。
では、具体的にどのような行為が取適法で禁止されているのか、次章で行為類型ごとに具体例や実際の勧告事例を交えながら解説します。
取適法は、発注者が守るべきルールとして、11の禁止行為を定めています。たとえ中小受託事業者の了解を得ていても、また、委託事業者に違法性の意識がなくても、これらの規定に触れるときには、本法に違反することになるので十分注意が必要です。
禁止行為は、次の2つに分かれます。
ここでは、それぞれの行為を具体例や公正取引委員会の勧告事例とあわせて解説します。
なお、取適法では、発注者を「委託事業者」、受注者を「中小受託事業者」、代金を「製造委託等代金」と呼びます。
本記事では分かりやすさを優先し、「発注者」「受注者」「代金」と表記します。また、紹介する勧告事例は取適法の施行前のものであるため、当時の呼称である「下請事業者」「下請代金」を用いています。
受領拒否とは、受注者に責任がないにもかかわらず、発注した商品や成果物の受け取りを拒むことです。
たとえば、次のようなケースが考えられます。
このような行為をされると、受注者は保管費用や再販売の負担を負うことになり、大きな損失につながります。
発注者は、受注者から商品や成果物を受け取った日から60日以内のできるだけ短い期間で代金を支払わなければなりません。
「資金繰りが苦しい」「社内の支払い処理が間に合わない」といった事情があっても、支払いを遅らせる理由にはなりません。受注者が了承していた場合や、発注者に違反しているという認識がなかった場合でも、原則として違反になります。
たとえば、次のようなケースが考えられます。
また、取適法では、代金を手形で支払うことも禁止されています。支払期日までに現金化できないなど、60日以内に支払うことが困難な支払い手段も同様です。
代金は、受け取った日から60日以内に現金で支払うのが原則です。改正前の下請法では、「割引が困難な手形を交付すること」が独立した禁止行為とされていました。取適法ではこの類型がなくなり、手形による支払いは代金の支払遅延として扱われることになりました。
受注者にとって代金の回収が遅れることは、資金繰りの悪化につながりかねない問題です。事業の継続にも影響しかねないため、取適法では規制されています。
代金の減額とは、一度決めた取引代金を、受注者に責任がないにもかかわらず一方的に減らすことです。
たとえば、次のようなケースが考えられます。
発注者が「受注者も了承した」と考えていても、受注者に責任がない限り、原則として取適法違反となります。減額について合意していたかどうかは問われません。
返品とは、受注者に責任がないにもかかわらず、発注者が受け取った商品などを返すことです。
たとえば、次のようなケースが考えられます。
「売れ残ったら返品する」という取り決めを発注前にしていたとしても、受注者に責任がない限り、原則として返品は認められません。
このような行為があると受注者は、返品された商品の保管や再販売が必要になることがあります。商品によっては再販売が難しく、そのまま損失になるケースもあります。
買いたたきとは、通常支払われる価格よりも著しく低い代金を一方的に決めることです。
市場価格や原材料費が上昇しているにもかかわらず、発注者が従来どおりの価格を押し付けるケースも、状況によっては買いたたきに当たる可能性があります。
たとえば、次のようなケースが考えられます。
価格交渉そのものは禁止されているわけではありません。しかし、受注者が自由に交渉できない状況で著しく低い代金を一方的に決めることは、取適法上問題となる可能性があります。
購入・利用強制とは、正当な理由がある場合を除き、発注者が受注者に対し、自社の商品やサービスなどを購入・利用するよう不当に求めることです。
たとえば、次のようなケースが考えられます。
受注者が取引を継続するために断れない状況であれば、購入・利用強制に当たる可能性があります。
もっとも、成果物の品質を均一に保つために特定の材料を指定する場合など、正当な理由があるときは違反になりません。
報復措置とは、受注者が公正取引委員会、中小企業庁又は事業所管省庁へ申告したことなどを理由に、不利益な取り扱いをすることです。
たとえば、次のようなケースが考えられます。
取適法では、違反行為を申告した受注者が不利益を受けないよう、報復措置を禁止しています。
取適法では、中小受託事業者が、委託事業者による取適法違反の事実を公正取引委員会、中小企業庁長官又は事業所管大臣に知らせたことを理由として、取引数量を減らしたり、取引を停止したりするなどの不利益な取扱いをすることを禁止しています。
そのため、下請けいじめにあったときは、公正取引委員会、中小企業庁又は事業所管省庁への申告も検討しましょう。
有償支給原材料などの早期決済とは、発注者が受注者に有償で原材料などを支給した場合に、その代金を完成品の代金より先に回収することです。
たとえば、発注者から材料を購入して製品を製造する契約で、完成品の代金が支払われる前に、材料代だけを差し引いたり、別途支払いを求めたりするケースがこれに当たります。
このような取り扱いをされると、受注者は完成品の代金を受け取る前に材料代を負担しなければならず、資金繰りが悪化するおそれがあります。こうした事情によって受注者の利益を不当に害する場合に、取適法違反となります。
不当な経済上の利益の提供要請とは、発注者が受注者に対し、本来負担する必要のない費用や労務を提供させることです。
たとえば、次のようなケースが考えられます。
発注者からの依頼であって、受注者に正当な対価が支払われず、受注者の利益を不当に害する場合には、取適法違反となります。
発注後や納品後に、受注者に責任がないにもかかわらず、仕様変更ややり直しを求め、それによって受注者の利益を不当に害する場合も、取適法違反となります。
たとえば、次のようなケースが考えられます。
仕様変更が必要になること自体は珍しくありません。しかし、その負担をすべて受注者に負わせることは、公正な取引とはいえません。
協議に応じない一方的な代金決定とは、原材料費や人件費などのコストが上がったために受注者から価格の協議を求められたにもかかわらず、発注者がその協議に応じなかったり、必要な説明や情報提供をしないまま代金を決めたりすることです。
令和7年の法改正で新たに設けられた禁止行為で、対等な価格交渉の機会を確保することが目的とされています。
たとえば、次のようなケースが考えられます。
買いたたきは、通常支払われる価格と比べて著しく低い代金かどうかが問題です。これに対してこの禁止行為は、価格の水準そのものよりも、協議の過程が問われる点に特徴があります。
価格を据え置く場合であっても、協議に応じないまま一方的に決めたことで受注者の利益を不当に害するときは取適法違反となる点にご留意ください。
取適法で禁止されている行為に当てはまる可能性があっても、「取引先との関係が悪くなるのでは」と不安になり、声を上げられない方も見受けられます。
しかし、不当な要求を受け続けると、損失が大きくなってしまうおそれがあります。被害を最小限に抑えるためにも、状況に応じて適切な方法で対応することが大切です。
取適法違反を主張するには、「どのような要求を受けたのか」を客観的に示せる証拠が欠かせません。
たとえば、次のような資料が重要な証拠になります。
口頭でのやり取りしか残っていない場合は、日時や担当者名、やり取りの内容をできるだけ早く記録しておきましょう。時間が経つほど記憶があいまいになり、後から事実を証明することが難しくなるためです。
証拠がそろったら、まずは発注者と話し合うことで解決できないか検討しましょう。
発注者が取適法の内容を十分に理解しておらず、違法な対応をしていることに気づいていないケースもあります。その場合は、法律の内容を踏まえて説明することで、改善につながることもあります。
話し合いでは、感情的な言い方は避け、「契約内容と異なる」「取適法上問題になる可能性がある」といった客観的な視点で伝えることが大切です。
また、話し合いの内容は議事録やメールなどで残しておくと、後の手続きでも役立ちます。
話し合いで解決できない場合は、行政の制度を利用することも選択肢のひとつです。
取適法では、受注者が公正取引委員会や中小企業庁のほか、事業を所管する省庁へ違反の疑いを申告できる仕組みが設けられています。申告を受けた行政は必要な調査を行い、違反の事実があると認めたときは、勧告などの措置をとることとされています。
「申告したら取引を打ち切られるのではないか」と不安に感じる方もいるでしょう。しかし、取適法では、申告したことを理由に発注を減らしたり、取引を打ち切ったりする報復措置も禁止されています。
そのため、ご自身の会社だけで解決が難しい場合は、行政の制度を活用することも検討するとよいでしょう。
下請けいじめによって実際に損害が発生している場合は、発注者に対して損害賠償を請求できる可能性があります。
たとえば、以下のような問題が生じることがあります。
もっとも、損害賠償請求では、契約内容や損害額などを法的に整理しなければなりません。行政に申告しても、行政が必ずしも発注者に損害の補填を指示してくれるわけではないため、金銭的な回復を求める場合は、交渉や訴訟などの手続きが別途必要です。
適切な解決を目指すためにも、損害賠償を検討する段階では、取適法や企業間取引に詳しい弁護士へ相談することをおすすめします。
下請けいじめは、ご自身だけで対応しようとすると、取引関係の悪化や証拠不足などから、思うように解決できないことがあります。
状況に応じて相談先を選ぶことで、問題が早期に解決する可能性があります。ここでは、それぞれの相談先の特徴を見ていきましょう。
取引かけこみ寺は、中小企業庁が設置する中小企業向けの相談窓口です。令和8年1月1日に、「下請かけこみ寺」から名称が変更されました。
下請けいじめをはじめとする取引上のトラブルについて、専門の相談員へ無料で相談できます。必要に応じて弁護士との無料面談を受けられるほか、法律の解釈などについては匿名で相談することも可能です。
相談内容に応じて、制度の説明や解決に向けたアドバイスを受けられるほか、必要に応じて裁判外紛争解決手続き(ADR)の利用について案内を受けられることもあります。
「取引先の対応が違法なのか分からない」「まずは第三者の意見を聞きたい」という場合に利用しやすい相談先です。
取適法違反が疑われる場合は、公正取引委員会や中小企業庁、事業を所管する省庁へ申告することが可能です。
申告を受けた監督官庁は、必要に応じて調査を実施し、違反が認められた場合には、発注者に対して勧告や公表などの措置を行います。勧告に従わない場合には、命令が行われることもあります。
行政による対応は、発注者に改善を促す有効な手段です。一方で、個別の損害賠償請求や契約交渉を代理して行うものではありません。発注者に対して、生じた損害を補填するよう指示するものでもありません。
「違反行為をやめてほしい」「行政に調査してもらいたい」という場合に適した相談先といえます。
「取引先との関係もできるだけ維持したい」「損害も回復したい」という場合は、弁護士への相談がおすすめです。
弁護士であれば、取適法違反に当たるかどうかを法的な観点から判断したうえで、状況に応じた対応方法を提案できます。
また、発注者との交渉や内容証明郵便の作成、損害賠償請求、調停・訴訟まで一貫して対応できる点も大きなメリットです。
下請けいじめは、対応を誤ると取引の継続が難しくなることもあります。弁護士が間に入ることで、感情的な対立を避けながら、適切な解決を目指しやすくなるでしょう。監督官庁へ申告するかどうかを含め、取引への影響を見通したうえで進め方を検討できる点も、弁護士に相談するメリットといえます。
弁護士を探す際は、企業法務や取適法に関する実績があるかを確認しておくとよいでしょう。法律事務所のホームページで取り扱い分野や解決事例を確認したり、初回相談を利用して相談しやすいかどうかを確かめたりすることができます。
下請けいじめは、「取引先との力関係があるから仕方がない」と諦める必要はありません。取適法では、受注者を守るために11項目の禁止行為が定められており、発注者が一方的に不利益を押し付けることは認められていません。
「これも下請けいじめに当たるのだろうか」「どのように対応すれば取引への影響を抑えられるだろうか」と判断に迷うときは、ご自身だけで抱え込まず、弁護士へ早めに相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、発注者と受注者間に生じるトラブルのご相談を随時受け付けておりますので、まずはご相談ください。問題解決に向けて、知見・経験豊富な弁護士が尽力いたします。
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