非上場株式を相続した場合の選択肢は、保有するか売却するかの2つです。
ただし、上場株のように証券会社で簡単に売買できるものではありません。会社の承認が必要になるケースが多く、売却の手続きや進め方を誤ると、思うように現金化できないこともあります。また、売却時には税金がかかるため、事前に基本的な仕組みを理解しておくことも重要です。
今回は、非上場株式を相続した後の選択肢と売却する際のルール、注意点などをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
非上場株式を相続したら、保有するか売却するかを検討することになります。ただし、その判断をする前に、相続した非上場株式には上場株式とは異なる特徴があることを理解しておかなければなりません。
それぞれの特徴や注意点を整理し、判断のポイントを確認していきましょう。
非上場株式とは、証券取引所等の金融商品取引所に上場していない株式をいいます。このような非上場株式を相続した場合、まずは以下の点に注意が必要です。
相続した非上場株式をそのまま持ち続けることも選択肢のひとつです。
ただし、以下のようなメリットとデメリットがあることを理解しておく必要があります。
非上場株式を相続した場合、株式を売却して現金化するという方法もあります。その場合のメリット・デメリットは、以下のとおりです。
最終的に保有と売却のどちらを選ぶかは、あなたが置かれている状況によって異なります。判断に迷うときは、次のようなポイントを踏まえて検討してみるとよいでしょう。
たとえば、経営に関与する意思がなく、資金が必要な場合は売却が現実的な選択肢です。一方で、会社の業績や将来性に期待でき、今後も株主として関わる意思がある場合には、保有を続けるという選択肢もあります。
まずはこれらのポイントを踏まえて、自分にとってどちらが適しているかを整理してみましょう。
非上場株式は、上場株式のように自由に売買できるわけではありません。売却には会社法上のルールがあり、必要な手続きを踏む必要があります。ここでは、非上場株式の売却の基本的な仕組みと注意点を説明します。
非上場会社の株式は、ほとんどの場合「譲渡制限株式」です。これは、株式を第三者に売る際に、会社の承認が必要とされている株式です。
上場株式であれば証券会社を通じて自由に売買できますが、非上場会社の株式の多くは譲渡制限株式であり、会社の承認がなければ売却できません。
また、市場で自由に売買されていないため買い手を見つけにくく、売却する際の選択肢は限られてしまいます。
非上場株式の売却先は、会社・他の株主・第三者の3つに分けられます。売却先ごとの特徴は、以下のとおりです。
非上場株式の売却価格は、上場株式のような市場価格が存在しないため、当事者間の合意によって決まります。もっとも、売却価格を決める際には、まず「何のために株式を譲渡するのか」という目的を踏まえることが重要です。
たとえば、親族への事業承継や従業員への譲渡では、譲受人の資金負担を考慮して、できるだけ低い価格で譲渡したいと考えるケースも少なくありません。一方で、会社による自己株式の取得や第三者への売却などでは、株式の適正な価値を把握するために企業価値を評価し、その結果を参考に売買価格を決める例も多く見られます。
企業価値を評価する代表的な方法には、
などがあり、どの方法を採用するかによって評価額が異なることがあります。
そのため、会社が自社株を買い取る場合などには、評価額をめぐって当事者間で対立するケースも少なくありません。不利な価格で売却してしまわないよう、事前に専門家へ相談し、適正な価格の目安を把握しておくことが重要です。
一方、親族間での譲渡や事業承継などでは、贈与税などの課税上の問題を避けるため、売買価格を検討する際に税務上の株式評価額を参考にすることもあります。税務上の株式評価額の算定方法は、株主が同族株主かどうかや会社の規模などに応じて、適用される評価方法が法令・通達で定められています。
その際に用いられる算定方式には、代表的なものとして、
などがあります。
税務上のルールで算定された株価で売買しなければならないわけではありません。しかし、例えば、税務上の時価よりも著しく低い価格で譲渡した場合には、取引の内容によっては買主に贈与税が課される可能性があります。そのため、株式を譲渡する場合には、課税リスクも踏まえて税理士にも相談したうえで売買価格を決定することをおすすめします。
非上場株式を売却する場合は、会社法に基づいた手続きを踏む必要があります。一般的な流れは次のとおりです。
まず「誰に株式を売るか」を決めます。
買主候補が決まったら、売買価格や譲渡時期などの条件について話し合いを進めましょう。
売買価格などの条件について話し合いを進め、株式譲渡契約を締結します。
なお、株式譲渡契約の締結時期、株式譲渡の効力発生時期、会社による譲渡承認の時期の各時期の先後関係によって、会社法に基づく手続きの方法が変わります。また、それを踏まえて、株式譲渡契約の内容も変わることがあります。
買主が決まったら、株主は会社に対して「株式譲渡承認請求書」を提出します。
譲渡承認請求を行う際には、会社が譲渡を承認しない場合に会社または指定買取人による買い取りを求める旨を記載することができます。
株主から譲渡承認請求を受けた会社は、譲渡を認めるかどうかを決定します。
会社は請求を受けてから2週間以内に承認・不承認を通知しなければならず、期限内に通知がなければ承認されたものとみなされます。
会社が譲渡を承認しない場合に会社または指定買取人による買い取りを求める旨が記載された譲渡承認請求に対し、会社が譲渡を認めなかった場合、会社は、自ら買い取るか、または指定買取人を指定する必要があります。
株式の売買価格は、会社または指定買取人との協議により決まりますが、当事者間で価格がまとまらない場合には、裁判所に価格決定の申し立てを行うことができます。
譲渡が承認された場合、または会社・指定買取人との売買が成立した場合には、株式譲渡契約の内容に従って株式の譲渡を実行し、株主名簿の名義書換など必要な手続きを行うことで売却が完了します。
非上場株式を売却すると、売却に伴って税金がかかる場合があります。なお、売却先によって課税の仕組みが異なるため、税負担にも違いが生じます。以下では第三者に売却した場合と発行会社が買い取った場合に分けて説明します。(なお、売却額は適正価格であることを前提としています)
発行会社以外の第三者や他の株主に株式を売却した場合は、譲渡所得として所得税と住民税が課税されます。
譲渡所得は、次のように計算されます。
この譲渡所得に対して、
が課され、税率は合計で20.315%となります。
なお、取得費が不明な場合は、譲渡金額(売却価格)の5%相当額を取得費として計算できます。
発行会社が自己株式として買い取る場合には、売却代金の一部(資本の払い戻しに相当する部分)が譲渡所得、一部(資本の払い戻し部分を超える部分)が「みなし配当」として取り扱われます。
第三者への売却であれば分離課税として20.315%の税率でしたが、みなし配当部分は総合課税となり、総合課税は累進課税のため、売却した方の所得状況によっては第三者へ売却する場合より税負担が重くなることがあります。(令和7年4月1日現在法令で最大税率45%)
ただし、相続により取得した非上場株式を一定の要件のもとで発行会社に譲渡した場合、みなし配当に関する特例が適用され、税負担を軽減できることがあります。
参考:「No.1477 相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の課税の特例」(国税庁)
このように、発行会社が買い取る場合は第三者へ売却する場合とは税金の仕組みが異なります。税負担は売却する方の所得状況によって大きく異なるため、売却先を決める前に専門家へ相談することをおすすめします。
相続した非上場株式について相続税を納めている場合は、第三者に売却する場合でも、発行会社が買い取る場合でも、一定の要件を満たせば「取得費加算の特例」を利用できる可能性があります。
この特例は、一定の要件を満たした場合に、その財産に対応する相続税額の一部を取得費に加算できる制度です。取得費が増えることで譲渡所得が少なくなり、結果として所得税・住民税の負担を軽減できます。
特例を適用した場合の譲渡所得は、次のように計算されます。
ただし、適用にあたってはその売却等される方に相続税が課税されていることや、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していることなどの要件があるため、詳しくは税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
参考:「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」(国税庁)
相続した非上場株式を売却する場合、会社とのやり取りや価格交渉、税務対応など、専門的な判断が必要になる場面が多くあります。そのため、非上場株式の取り扱いで悩んだときは弁護士・税理士に相談することをおすすめします。
非上場株式の売却では、「思ったよりスムーズに進まない」と感じるケースが少なくありません。
特に多いのが、売却価格をめぐる問題です。非上場株式には市場価格がないため、会社や買主から提示される金額が適正なのか判断しづらく、不利な条件で合意してしまうリスクがあります。
また、譲渡制限株式の場合には会社の承認が必要ですが、その承認が得られないことで売却自体が進まないこともあります。
さらに、相続人が複数いる場合には、「売却して現金化したい人」と「そのまま保有したい人」で意見が分かれ、話がまとまらないこともあります。
非上場株式の売却では、こうした法律・手続き上の問題が複雑に絡み合うことが多いため、早い段階で専門家へ相談することをおすすめします。
非上場株式を売却する場合、会社の承認を得るための手続きが必要になります。譲渡が不承認となり、会社が自ら買い取るか、指定買取人による買い取りが行われるようになったとしても、その際、価格をめぐって争いが生じるケースもあります。
弁護士は法的な手続きや交渉をサポートし、必要に応じて会社との交渉や紛争対応を担うことができます。弁護士に相談や依頼をすることで、法的なリスクを抑えながら売却を進めることが可能です。
非上場株式の売却では、税金の扱いにも注意が必要です。
たとえば、第三者に売却する場合と発行会社に売却する場合では、課税方法が異なります。
また、取得費が不明な場合や取得費加算の特例などが適用できるかどうかによっても、最終的な手取り額は変わります。事前に検討せずに進めると、「思ったより手元にお金が残らない」といった結果になりかねません。
このように、非上場株式の売却は、法律だけでなく税務の視点も踏まえて進めることが重要です。
ベリーベスト法律事務所では、非上場株式の売買に関するご相談や紛争対応の実績を有する弁護士が、お客さまの状況に応じたサポートを行っています。また、グループ内に税理士も在籍しており、お客さまのご希望に応じて連携し対応することが可能です。ぜひお気軽にご相談ください。
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