建物が完成して引渡が終わっても、引渡後に施主から、欠陥住宅だとして、瑕疵担保責任や契約不適合責任にもとづいて修補工事を求められることはよくあることです。
特に自宅の建築の場合、多くの施主にとっては、一生に一度のことであり、マイホームということで、いろいろなところにこだわりを持たれている方がたくさんいらっしゃいます。
施工業者としては、できるだけ施主の夢を叶えてさしあげたいところですが、施主が欠陥住宅だと言って瑕疵について訴えてきたときには、施工業者として真摯に対応すべき瑕疵と、そこまでの対応は法律上要求されていないものとがあります。
施工業者としては、瑕疵担保責任や契約不適合責任が課せられる、真摯に対応すべき瑕疵なのか、ごく軽微な瑕疵や、施主の主観的な使い勝手の悪さというべきもので、法律上瑕疵担保責任や契約不適合責任が課せられるものではない瑕疵なのか、見極めが必要です。
瑕疵担保責任における「瑕疵」や、契約不適合責任における「契約不適合」というのは、端的に言えば、契約の内容どおりのものができていないということです。
もう少し詳しくご説明しますと、特別に契約の内容となっていなくても、建物を建てようとする者は、通常、各種建築法規に従った建物を建てる意思を有していますので、建築基準法を始めとする各種建築法規にかなっている建物を建てるということは、当然契約の目的となっています。
ですから、建築基準法等の建築法規に違反していることは、当然、瑕疵となります。
また、当事者が契約で合意したことが実現されていないことも瑕疵にあたります。
和室に窓を2つ付けると合意して、そのとおりの図面を作ったのに、窓が1つしか作られていなかったら、これも瑕疵といえます。
契約ではそこまで細かく決めなかったとしても、当然、備え付けておくべき設備や備品が備わっていないようなときも、契約の内容に反しているといえるので瑕疵があると判断されます。
たとえば、トイレにペーパーホルダーが設置されていなかったというような場合です。
そのほか、請負契約の当事者は、当然、建物の建築に際して通常の施工業者が行ってくれるであろう水準での施工を期待していますから、施工上当然に要求される一定の施工水準を満たしていないことも瑕疵だといえます。
ただし、これはあくまで社会通念によって判断されるものなので、特別に美麗なものを要求するのであれば、それを明示的に契約の内容にしていないと、瑕疵と評価するのは難しいでしょう。
これらの瑕疵がある場合には、令和2年3月31日までに締結した請負契約であれば瑕疵担保責任が、それ以降の請負契約であれば契約不適合責任が生じます。
瑕疵担保責任であれば、施工業者に過失がなかったとしても、瑕疵がある以上、その瑕疵が施主が提供した材料や施主の指図に起因するものであった場合を除き、施工業者は瑕疵の修補か、または修補に代わる損害賠償に応じなければなりません。
また、施主の提供した材料や指図が原因であったとしても、そうした材料や指図が不適切なものであることを施工業者が知っていたのに告げなかったときには、やはり施工業者の責任になります。
契約不適合責任であれば、施主からの、修補請求、代金減額請求、損害賠償、解除という責任追及が行われます。契約不適合責任は、債務不履行責任ですので、施工業者が瑕疵について自分の責任ではないことを立証すれば、責任を免れることができますが、施工業者に責任がなかったことの立証責任が課せられているので、容易に責任を免れることができるものではありません。
瑕疵修補請求権とは、瑕疵を補修する工事を行うよう請求できる施主の権利です。
瑕疵があるときには、施主は施工業者に対して、その瑕疵を修補するよう請求することができます。修補工事の方法は、施主に不相当な負担をかけない限り、施工業者が決めることができます。
また、その瑕疵が、施主が提供した材料の性質や、施主の指図によって生じたものであるときには、そうした材料や指図が不適切なものであることを施工業者が知っていたのに告げなかったときを除き、施工業者は瑕疵修補責任を負いません。
施工業者は建築のプロですから、施主が誤った指図をしているようなときには、専門家としてこれを指摘する責任があります。
法律上修補義務が課せられているのにこれを怠ると、施主からのクレームにとどまらず、訴訟という事態に発展し、遅延損害金を含めた損害賠償が課せられるといったことになってしまいます。
施主から瑕疵修補請求がなされた場合には、すぐに現地に行って瑕疵を確認し、施工業者の施工ミスといった法律上施工業者に修補責任が発生する瑕疵なのか、引渡から何年も経過したことによる経年劣化などで、施工業者に責任が発生するとはいえないものなのか、きちんと見極めて、修補すべきものは真摯に対応して修補を行うこと、また、経年劣化などで、施工業者の責任とはいえないものであるときには、その旨を丁寧に説明して理解を得ることが大切です。
欠陥住宅という訴えは様々です。トイレにペーパーホルダーが取り付けられていないといった明白な瑕疵であれば、引渡後すぐに修補請求が行われるでしょうが、引渡から何年も経過してから請求がなされる場合もあります。
漏水や不同沈下などで、数年経たないと目に見える現象が現れてこないケースもあります。
いずれの場合でも、施主から請求があった場合には、すぐに現場を確認することが大切です。
中には、すぐに原因が判明せず、原因を究明するための調査が必要な場合もあります。
雨漏りの場合などでは、取りあえず応急措置をしておいて、どこから雨漏りが生じているのか、きちんと調査を行って原因を突き止めて、その原因を補修する必要がある場合もあります。
これを怠って、その場しのぎの補修で済ませてしまうと、再度の雨漏り、再再度の雨漏りといったことになってしまいます。
そうなると施主との関係は極めて悪化しますし、ハウスメーカーとしての信用にもかかわる事態になってしまいますので、調査に時間を要するような場合には、調査をしないと根本的に直すことができないので調査に協力してほしいと丁寧に説明し、了解を得ながら対応していくことが大事です。
施主は高額の請負代金を負担しており、特にマイホームの建築のような場合には、建物に対する強い思い入れを持っています。マイホームに瑕疵があるとなると、日常の生活に不便や障害が生じる場合もあります。
対応してくれず、放置されているというのが、施主の苦情の最たるものなので、すぐに現場を確認しに行き、施主と密接なコミュニケーションを取って対応していかなければなりません。
追加変更工事をめぐるトラブルは、建築紛争で非常によくあるトラブルです。
追加工事というのは、当初の契約で取り決めた内容の工事(本工事といいます)に含まれていない項目の工事を追加で行うことです。クロスを貼る面積を増やすとか、本工事にはなかった床暖房を新たに設置することになったなどが追加工事です。
変更工事は、本工事の一部を取りやめて、それに代えて新たな工事を行うことです。壁のクロス貼りを止めて塗り壁にするなどが変更工事です。
工事中に施主から要望が出て、追加工事や変更工事を行うこともありますし、工事を始めてから本工事通りの施工では難しいことが分り、追加変更工事となることもあります。
いずれにしても、追加変更工事を行うためには、施主との合意が必要です。
また、追加変更工事代金を請求するためには、追加変更工事の代金に関する合意も必要です。
追加変更工事は、工事の最中に行われるものなので、口頭でのやり取りで済ませてしまい、後になってから、頼んでいない、代金を払うと約束していないといったトラブルになることが非常に多いです。
追加変更工事を行う場合には、追加変更工事に対する合意と、代金支払の合意を、施主のサインといったものでもよいので、できるだけ書面で取り付けておくことが重要です。
追加変更工事の代金を請求するためには、施主が任意に払ってくれないのであれば、施工業者が追加変更工事に対する合意が成立していたことを立証しなければなりません。
しかし、口頭での合意を立証することは容易ではありません。
トラブルになりやすいケースとしては、本工事の請負代金で施工すべき範囲の工事であると施主から主張されるというケースがあります。
本工事の範囲には含まれない工事だが、施主が、注文していないと主張するケースや、無償のサービス工事だと思っていたと主張されるケースもあります。
このようなトラブルを防ぐためには、まず、本工事にかかる前に、契約書・図面・詳細な見積書を作成し、本工事の範囲を明らかにしておく必要があります。
本工事の契約書や図面がきちんと作成されていなかったり、本工事の見積書も、何々工事一式としか記載されていないようなものだと、そもそもその工事が本工事に含まれていない追加変更工事なのかを立証することも難しくなってきます。
これを防止するには、まず、本工事の契約書や図面をきちんと作成し、本工事の見積書も可能な限り詳細に記載すべきです。
見積書が後から交付されたもので、本工事の内容といえるかどうか争いになる場合もあるので、見積書を契約書と一体のものとして作成するとか、後からの交付になってしまったときには、施主に了解してもらった証拠となるように、施主のサインをもらうなど工夫が必要です。
そして、追加変更工事が発生したときには、追加変更工事前に、追加変更工事に関する契約書を取り交わすとか、施主から発注書を出してもらうというのが一番良いのですが、限られた工期の中で、そこまで作成するのが難しいのであれば、見積書を作成して施主に交付し、サインをもらう、打合せ議事録を作成し、そこに施主のサインをもらうなどの工夫は必要です。
こうした工夫、努力を怠ると、追加変更工事の合意の立証ができていないとなり、裁判で負けてしまうリスクがあります。
工事が中断し、建物が完成されず終わってしまうこともあります。
施主の責任で工事が未完成で終わることもありますし、施工業者の責任で工事が未完成で終わることもあります。
それぞれの場合で、請負代金請求や損害賠償請求がどのようになるのかご説明します。
施主は、民法641条により、建物完成まではいつでも請負契約を解除できます。
ただし、この場合には、施工業者に生じた損害を賠償しなければなりません。
逆に、施工業者は、解除に対して抵抗することはできず、損害賠償ができるだけで、施工業者の一存で工事を続行したり、請負代金を請求することはできません。
施工業者が請求できる損害賠償の額
施工業者が請求できる損害賠償の額は、請負契約で違約金が定められていれば、その違約金の額を請求することになります。
違約金が規定されていないときには、すでに仕入れた材料の費用や作業員を確保するために必要だった費用や、発生した実費などと、工事が完成したら得られたであろう利益を請求することができます。
他の工事を行って利益を得たような場合
ただし、仕入れた材料を転売したり、工事が解除になったために他の工事を行って利益を得たような場合には、施工業者が得た利益が考慮されて、損害賠償額が少なくなることもあります。
施工済みの部分がある場合
また、施工済みの部分があるときには、既履行部分について施工業者の報酬が算定できるものであり、かつ、既履行部分が当事者に利益となるとき(既履行部分を利用して工事を続けられるような場合など)であれば、施主が解除できるのは、未履行部分に限られ、施主は既履行部分の請負代金を施工業者に払わなくてはなりません。
この既履行部分に対する請負代金のことを、出来高といいます。
施工業者に責任があり、施主が契約を解除したという場合には、施工業者の債務不履行により解除となったわけですから、施工業者は施主に生じた損害を賠償しなければなりません。
ただし、この場合であっても、すでに施工済みの部分があるときには、既履行部分について施工業者の報酬が算定できるものであり、かつ、既履行部分が当事者に利益となるときであれば、施主が解除できるのは、未履行部分に限られ、施主は既履行部分の請負代金を施工業者に払わなくてはなりません。
ですから、既履行部分がある場合に、施工業者の債務不履行により請負契約が解除された場合には、施工業者からは施主に対する出来高の支払請求、施主からは施工業者に対する損害賠償請求が行われ、対当額については相殺で処理されることになるでしょう。
施工業者の方は建築の専門家として、誇りを持って瑕疵のない完全な建物を作り上げようとされています。そのために、建築した建物に瑕疵があったという連絡を受けたときには、自分の責任だと感じてしまわれる方が多いと思います。
また、施主の方は、施工業者にとってはお客様なので、はっきりと自己の見解を述べることが難しい場合もあるでしょう。
そのために、施工業者の方が施主と直接交渉されると、良心的な方ほど、法律上施工業者の責任とは判断されない瑕疵についても責任を引き受けてしまったり、施主の無茶な要求を拒むことができず、悩まれる場合が多いと思います。
その点、弁護士は法律のプロですので、法律上要求される義務は果たしますが、法律で要求されていないことについては、施工業者が責任をお引き受けすることはできませんと、明確に相手に告げることができます。
弁護士に交渉を委ねることにより、施工業者の方は施主と直接話さなければならないという重荷を委ねることができ、精神的な負担も、施主との対応のための時間も大幅に削減することができます。
また、弁護士は法令と裁判例を調査して、施工業者に有利となる解決を導くことができます。
建築紛争は全国どこででも起こりうる事件ですが、ベリーベストは全国に支店を有しており、お近くの支店でご相談を受けることができます。
また、オンライン会議などを駆使して、支店でのご相談であっても、本店等の建築紛争の経験のある弁護士が参加してご相談をお受けして、適切な助言を行うことができます。ベリーベストではこうした体制が組まれており、全国どこでもサービスを提供することが可能です。
ベリーベストには一級建築士も所属しております。建物調査会社の協力を得て、建築士による建物調査を行ってもらうこともできます。
建築紛争でお悩みの方は、このような強みがあるベリーベストにぜひご相談ください。
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