現在、賃貸住宅をお貸ししている大家様におかれては、賃貸に出したときと経済状況や
時の経過によるライフスタイルの変化、あるいは、賃貸に出している不動産を改修した上で今後は自分が住みたいと考えはじめた方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、その場合、現実には、当該物件には、賃借人の方が居住されております。
我が国の法制度(借地借家法)においては、「法的弱者である賃借人を保護する」ということを基本理念としており、大家様自らが「貸すのはもうやめた」と大家都合で伝えても直ちに賃借人に退去いただけるわけでもなければ、強制的に賃借人を立ち退かせることができるわけではありません。
では、どういう場合であれば、賃借人に立ち退きいただくことができるのでしょうか。
次項以下で述べていきます。
上記で述べましたとおり、大家様(賃貸人)からある日突然、賃借人に対して、立ち退きをお願いしても強制的に賃借人を退去させることはできず、解約や更新拒絶で賃借人に退去してもらうには正当事由が必要となります。
正当事由があるといえるためには、建物に関して、以下のような賃貸人と賃借人の建物使用の必要性を考慮して判断されます。
あくまで正当事由は総合判断となりますが、正当事由を肯定する方向に働く要因(積極要因)の例としては、以下のようなものがあげられます。
これに対して、建物を第三者に売るというような場合は、正当事由を肯定する要因としては老朽化等と比較するとやや弱いものと解されます。
これとは異なり、賃貸人が建物を取り壊し後に駐車場にしたいがためという目的は、正当事由を肯定する要因としては弱いと解されます。
賃貸人の違反も正当事由を肯定する積極的な要因となります。
これに対して、賃借人が高齢で身寄りのない場合は、賃貸人がそうである場合と反対に正当事由を消極に判断する要因となるでしょう。
上記のような正当事由を肯定する要因が認められる場合は、それらの要因を押し出し、交渉で、交渉が決裂したのであれば裁判で明け渡し(退去)を求めていくことになります。
しかしながら、賃貸住宅を取り巻く状況は、多種多様であり、正当事由を肯定する要因がほとんどないケースや、積極要因と消極要因が混在しているというケースも多々あることと思われます。
ここで、重要な役割を果たすこととなるのが、「立ち退き料」という存在です。
旧借家法の時代には、判例の集積により、
と、認められてきた実態があり、現行の借地借家法では、正当事由の要因として
として立ち退き料の提供が規定されています(借地借家法28条)。
賃借人との紛争が裁判に至った場合でも立ち退き料の提供と引き換えに明け渡しが認められたり、交渉においては、立ち退き料の提供を提案することでその他の積極的な正当事由がほとんどないような状況でも賃借人の態度を軟化させ、話し合いによる任意の立ち退きを実現できたりする可能性が高まることとなります。
では、立ち退き料の提供が、賃借人に任意の話し合いでも裁判でも重要な役割を果たすとしても、大家様としては「結局、いくら払えばいいのか?」「相場はいくらくらいか?」ということに当然に関心が移られると思います。
この点については明確な相場というものはなく、結局は、さきほどの正当事由を肯定する要因の強弱や元の賃貸物件の大きさや周辺環境に照らした同ランクの物件に賃借人が移り住む費用等を勘案して決めるほかないのですが、あくまで参考というのであれば、賃料の6~10カ月分くらいの金額が一つの目安になるかもしれません。
なお、紛争が裁判に持ち込まれ、裁判所が立ち退き料を算定する場合は、裁判所が裁量で事案に応じた額を決定することとなります。
さて、正当事由の具備が備わっていると考えられる場合なのか、それが不十分でも交渉で立退料を提供することで退去を求める場合にしろ、以下の対応が必要です。
これらは、いずれも言った・言わないの争いとならないよう口頭ではなく、書面で残しておくとよいでしょう。また、書面であれば、内容証明郵便(配達証明付き)で行う方がよいでしょう。
解約申し入れ、更新拒絶のいずれも具体的な正当事由を明示することになります。
この段階から立ち退き料提示することも場合によってはあり得るかもしれません。
また、更新拒絶も解約申し入れも行うのを失念していたという場合であっても任意の交渉でご納得いただける立ち退き料を提示した上で賃貸借契約を合意解約できる可能性もあります。
上記で説明したように準備を整えたうえで交渉したとしても、入居者から立ち退きを拒
否されるケースもあるでしょう。そのような場合、時として感情的なやりとりにもなり、冷静な話し合いが困難となってしまうことがあります。
それにもかかわらず、大家様ご本人での話し合いを続けてしまった場合は、収拾がつかなくなる可能性があります。
そのような理由から、初めから難儀が予想される立ち退き交渉については、弁護士に依頼した方がスムーズに話が進む可能性が高いと思われます。
弁護士に立ち退きを依頼することで、最初の解約通知や更新拒絶通知の段階から適切な文章のチェックも可能ですし、交渉において、「大家が本気になっている」という印象を与えることもできます。
立ち退き料については、弁護士と相談の上で、相当と思われる金額を賃借人に提示し、感情論ではない具体的な条件をめぐる前向きな話し合いができる期待が高まります。
また、立ち退き交渉においては、大家様においても非常にストレスのかかる作業であるところ、弁護士に依頼することで相手である賃借人と直接向き合うのは弁護士となりますのでこの点で大家様としても時間と労力の大きな削減を図ることができます。
最終的に、退去いただくことで円満に話し合いがまとまった場合は、弁護士が明渡合意書を作成し、定められた期限にご退去いただくことになり、口約束により退去日を遵守しないような事態のリスクの軽減が大きく図られることとなります。
べリーベストでは、賃借人との交渉がまとまらない、または事前にその恐れがある案件について多数の解決実績があり、正当事由が具備されているとはいえないような大家様都合での退去お願いであっても、適正な立ち退き料を提示し、粘り強く交渉することで賃借人のご納得も得られ、退去いただいた案件等もございます。
また、更新拒絶や解約通知をしていなかったケースで急遽、大家様が物件の解約を望んだ案件でも交渉により合意解約に至ったケースもございます。
立ち退き交渉等でお困りの場合は、べリーベスト法律事務所にぜひご相談ください。
本来的には、正当事由が具備されているとは言い難いケースでは、立ち退きは、大家様からのお願いという立場にはなります。その点で賃借人の生活にも配慮して、きちんとご納得が得られる「円満退去」が望ましいものです。
賃借人とトラブルにならないよう円満退去を目指して、退去でお悩みになった場合は、
すぐに弁護士に相談されることをお勧めいたします。
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