建築基準法は、その第1条に定められているように、「建築物の敷地、構造、設備および用途に関する最低の基準を定める法律」であり、その目的は「国民の生命、健康および財産の保護」にあります。
この法律が対象とする「建築物」には屋根や壁を備えた家屋だけではなく、
も含まれますが、この記事では、特に断りがない限り、住宅等の一般的な建築物を対象として話を進めていきます。
ところで、建築物を建ててこれを保有するには、通常、以下のような手順で進めることになります。
これらそれぞれの段階で建築基準法が関わってくることになりますが、同法やその関連法令に定める基準に従って建築をすることによって、建築物の所有者・利用者である国民の生命、健康および財産が保護されるという関係にあります。
建築基準法の中でも、建築物の安全性を確保するために特に重要となるものが、建築確認および完了検査等の制度です。
建築物については、小規模なものや仮設のもの等、法定された例外を除いて、建築確認を経なければ建築することができません。
建築物は、原則として検査済証が交付されなければ使用することができないとされていますので(建築基準法7条の6第1項)、この項目で述べた一連の制度によって、建築物の使用に当たっての安全性が確保されているわけです。
また、建築基準法は、一部の例外を除き、建築物の設計と、建築工事が設計図書のとおりに実施されているかどうかの確認(これを「工事監理」といいます)を、「建築士」という資格を持つ技術者が行うものとしています(同法5条の6等)。
この建築士の資格と業務内容については、建築基準法とは別に建築士法という法律によって定められています。
建築士法は、建築士の行う業務の適性を図り、これにより建築物の質を向上させることを目的として制定された法律です(同法1条参照)。
その目的を達成するため、建築士が独占的に行うことができる業務(つまり、建築士以外の者が行ってはならない業務)の中には、耐震性や耐荷重に影響する高度な構造計算が義務付けられる建築物についての構造設計や、建築確認等の手続の代理が含まれており、建築士には建築物の安全性を確保する上で重要な職責があるといえます。
上記のとおり、建築物の完成に至るまでには建築確認や中間検査・完了検査がありますので、基本的には、建築基準法に違反した建築物(以下「違反建築物」といいます)が建築されることはないはずですが、建築基準法違反が見過ごされることや(実際に、建築確認機関が耐震基準違反を事前に発見できなかったケースがあります)、違反建築物の建築を強行することが考えられないわけではありません。
また、検査では分からない手抜き工事などによって、結果的に違反建築物が完成してしまうこともあります。
このような場合、管轄の行政機関(主に市町村ですが、都道府県であることもあります)は、行政指導を行い、場合によっては是正命令や工事の停止命令を発することができます。
国土交通省が公開している統計では、令和2年度に行政指導等の是正措置がなされた事例が5783件に上ります。
また、建築基準法に違反した者に対しては、罰則が科せられることになります。
例えば、行政機関の命令に違反した場合や、耐震・防火に関わる基準に違反した場合には、比較的重い罰則が定められています。
そのほかにも、以下のような罰則が定められています。
冒頭にも述べた建築基準法の目的からしますと、違反建築物は、安全性を欠いたものとみられることになります。
その結果、違反建築物については、以下のような不利益が付いて回ることとなります。
違反建築物については、その安全性を欠いているという点からも、また、所有者に対して指導や是正命令がなされる可能性がある(建築基準法9条1項等)という点からも、購入しようとする人はほとんどいないと考えられます。
その結果、違反建築物を売却することは、非常に困難といえます。
建築物という高価なものを建築し、または購入する場合、金融機関から融資を受けることが多いと思います。
まず、住宅の建築や購入に当たって利用できる住宅ローンについては、借入れができる要件として、「建築基準法に基づいて建築されているもの」などと定められており、違法の建築物について、住宅ローンを利用することは、ほぼ不可能です。
また、住宅ローンでなくても、金融機関は建築物の売却価値に着目して融資を行うことが一般的ですが(融資に当たっては、建築物に抵当権または根抵当権が設定されるのが通例です)、(1)で述べたように、違反建築物については買い手を探すことが困難と予想されますので、このような建築物に対して融資をする金融機関は、ほとんどないと考えられます。
違反建築物を、それと告げずに売却した場合、詐欺による取消し(民法96条1項)を主張され、売買が成立しなかったことにされてしまうでしょう。詐欺罪に該当するとして、刑事責任を負う可能性すらあります(※)。
また、買主が取消しを主張しなかったとしても、買主が行政機関からの是正命令を受けて必要な対応を行った場合、これに要した費用は詐欺という不法行為によって生じた損害といえますので、損害賠償を請求されるリスクもあります。
そのほか、万が一、売却した違反建築物が建築基準法に定める基準を満たしていなかったことに起因して、買主や利用者の生命または身体を損なうようなことがあれば、このような損害についての賠償も請求されることになってしまいます。
(※)詐欺を理由とする取消しまたは損害賠償請求のほか、建設業者または売主に対する契約不適合責任(担保責任)の追及も考えられます(民法562条ないし564条、559条、637条)。なお、民法では、請負契約に基づく担保責任の追及は1年間が限度とされていますが、住宅新築工事については住宅の品質確保の促進等に関する法律(いわゆる品確法)に特則があり、10年間は担保責任の追及が可能となっています(同法94条)。
① 相手方が違反事実を認めて話合いに応じてくるとは限らない
上記3章(1)で述べたとおり、違反建築物は処分しづらく、運良く処分できたとしてもトラブルの原因になります。
しかも、所有しているだけで不利益を被る可能性がありますので、違反建築物を建築してはならないことはもちろん、これを購入するべきでもありません。
しかしながら、自分が意図していなかったとしても、建設業者によって違反建築物が建築されてしまったり、違法性に気付かずに違反建築物を購入してしまったりする可能性はあります。
このような場合、違法な行為をした者(建設業者や売主)に対して、法的責任 を追及していくことになりますが、相手方も事情によっては刑罰を受けてしまう可能性がありますから、素直に違反事実を認めて話合いに応じてくるとは限りません。
② 法的手続を利用して責任追及をする
話合いに応じない相手方に対しては、法的手続を利用して責任追及をしていくほかありませんが、建築に関する紛争について的確に対応していくには、法的知識だけではなく、技術的な知識も必要となります。
この点、ベリーベスト法律事務所は、弁護士が建築瑕疵紛争についてチームを組んで対応し、建築基準法違反事例について検討を重ねております。
それだけではなく、特に技術的な側面について、所属している建築士とも連携を取って進めることができる点にもメリットがあります。
なお、ここでは、違反建築物を購入してしまった場合等について検討しましたが、自らが違反建築物の販売等をしたときには、逆に責任を追及される立場になることに注意が必要です。
① 所有する以前に、違反建築物と関わらないようにすることが重要
違反建築物を所有することとなってしまったケースについては、上記4章(1)で述べたとおりですが、違反建築物による損害は多額になるおそれがありますので、所有する以前に、違反建築物と関わらないようにするための対応も重要になってきます。
建設業者や売主に、積極的に騙す意図があったような場合には、被害に遭うことを防止することが難しいところがありますが、建築主や買主が企業の場合には、建築に詳しい顧問弁護士が付いているというだけで、そうした悪意のある関係者を排除できる可能性もあります。
② 契約時に建築紛争に詳しい弁護士がいることが望ましい
また、建築紛争に詳しい弁護士が取引に関与していれば、違法なことが行われるパターンを熟知していますので、事前に違法性を発見できる可能性も高いといえます。
このような面から、建築物に関する請負契約や売買契約などの大きな取引に当たっては、適切な弁護士を事前に関与させることが望ましいといえるでしょう。
これは、法令が新たに制定され、または改正された場合に、それ以前の法令に従って建築された建築物のうち、新たに制定・改正がなされた法令に適合しない建築物をいいます(建築工事中に法令の改正等がなされた場合も含みます)。
このような建築物であっても、必ずしも法令に適合するような改修等をする必要はなく、そのままの状態で存続させることが可能です(建築基準法3条2項)。
もっとも、既存不適格建築物の改築または増築を行うような場合には、法令の基準に従った建築物とする必要があることや(同条3項3号)、基準違反を放置すると保安上の危険性や衛生上の有害性が著しい場合には、指導および助言または使用中氏等の勧告若しくは命令を受けることがあります(同法9条の4、10条)。
そのため、既存不適格建築物についても、違反建築物に関して上記3章(2)で述べた事項(売却や融資が困難となること等)が部分的に当てはまり、既存不適格建物の購入または売却に際してトラブルとなる可能性がありますので、注意が必要です。
また、違反建築物と欠陥住宅も、微妙に異なる概念です。
欠陥住宅という文言が法令の中にあるわけではありませんが、おおむね、違反建築物に当たる住宅のほか、設計どおりに建築されていない住宅や、建材の不良により不具合が生じている住宅のうち、建築物の使用に際して不都合があるものを欠陥住宅と呼んでいます。
違反建築物については、建築基準法等による行政機関による対応や、刑事手続による責任追及も考えられますが、それ以外の欠陥住宅については、請負業者に対する担保責任の追及など、民事的に解決する必要があります(どのような民事責任が発生するかについては、後述する6章(4)をご参照ください)。
これまで、建築基準法のほか、建築士法や民法について触れてきましたが、これら以外にも、建築に関する重要な法令として、以下のものが挙げられます。
建築業法は、建設業を営む者の資質の向上と建設工事に関する請負契約の適正化を図り、これによって、建設工事の適正な施工を確保し、発注者を保護することを目的とする法律です(同法1条)。
同法にいう建設業とは、建設工事を請け負う営業のことをいい(同法2条2項)、建設業を営むためには、
が必要とされています(同法3条1項)。
ベリーベスト法律事務所では、この許可申請の代行も対応することができます。
消防法は、国民の生命、身体および財産を火災から保護すること等を目的とする法律です(同法1条)。
建築物との関係では、以下のような事項が重要です。
都市計画法は、適正な土地利用計画に基づいて地域・地区を定め、都市機能を維持増進し、都市環境を保護するための法律です。
これを達成するための手段として、同法は、土地利用について、都市計画区域、準都市計画区域および都市計画区域外に大きく分けた上で、都市計画区域および準都市計画区域の中では、12種類の用途地域を定めて建築や開発行為を制限しています。
特に都市部の建築において重要なのは用途地域による区分であり、住居系、商業系、工業系に分けた上で、住宅や工場などの用途が異なる建築物が混在することを防いでいます。
建築規制との関係では、例えば、住居系は快適な住環境を維持するために余裕を持った土地利用がなされるよう建ぺい率が小さく、商業系は、敷地の有効利用を図るために建ぺい率が大きくなっています。
このように都市計画法は、適法な建築を行うためには、実務上大きな役割を果たしています。
住宅の品質確保の促進等に関する法律(一般的に「品確法」などと呼ばれています)は、住宅について、性能表示基準およびこれに基づく評価制度を設け、住宅に関する紛争の処理体制を整備し、新築住宅の請負事業および売買家約における特別な瑕疵担保責任を定めています(同法第1条参照)。
このうち、特に瑕疵担保責任(契約不適合責任)については、建築工事業者および売主の責任が加重されていることに注意する必要があります(※)。
(※)全国宅地建物取引業協会連合会からの照会に対する国土交通省の令和3年6月21日回答は、本文で述べたような売主の行為が、宅地建物取引業者の本来的業務の関連業務に該当し、本来的業務の契約書とは別の書面による業務内容および報酬額等を明らかにするべきとしています。
以上のとおり、建築基準法をはじめとする建築関連法規につきましては、法的にも複雑であるばかりか、建築に関する技術的な知識が必要であることはご理解いただけたかと思います。
繰り返しにはなりますが、ベリーベスト法律事務所は、弁護士が建築瑕疵紛争についてチームを組んで対応してきており、所属している建築士とも連携を取ることが可能な体制を備えておりますので、建築関連の法令が問題となる事案に遭遇したときには、ベリーベスト法律事務所へのご相談をご検討ください。
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