企業法務コラム
従業員を解雇し、その後、元従業員から「解雇理由証明書」の発行を請求された場合、会社はどのような点に注意をしなければならないのでしょうか。
解雇理由証明書の交付を求められたのは初めてという人事担当者の方も多いと思いますが、元従業員が解雇理由証明書の発行を求めてくるということは、退職に納得していないという可能性が高いと考えられるため、人事部としてその対応は慎重にしなければなりません。対応次第では訴訟に発展する可能性もあります。
そこで、本コラムでは、解雇理由証明書を発行する際に注意すべきことや手続きの流れ、今後想定される展開など、会社が留意すべき点について解説していきます。
解雇理由証明書とは、会社がどのような理由で解雇したのかを記載した書面で、解雇することを伝える「解雇通知書(解雇予告通知書)」や退職時に渡す「雇用保険の離職票」とは別の書面です。
解雇理由証明書は、解雇した場合にあらかじめ交付しなければならない書類ではありませんが、解雇された労働者から請求があった場合には、遅滞なく交付する必要があります(労働基準法第22条第1項)。
また、解雇予告をした場合で、予告期間中に労働者から請求があった場合も同様に遅滞なく交付しなければいけません(同法第22条第2項)。
問題社員のトラブルから、
労働者から請求があった場合には、できる限り速やかにこれに応じることが望まれます。
解雇理由証明書交付の請求があったにもかかわらず発行しない場合、労働基準監督署から是正勧告がなされたり、「30万円以下の罰金」に処せられたりすることもあります(同法第120条第1号)。
なお、解雇理由証明書の請求権については、2年で時効となりますので、解雇してから2年以上経過している場合には、解雇理由の証明を求められてもこれに応じる必要はありません(同法第115条、平成11年3月31日基発169号)。
ここからは、解雇理由証明書のより具体的な書き方の注意点について解説します。
解雇理由の記載は、できるだけ具体的事実を正確に記載する必要があります。
また、就業規則の一定条項に該当することを理由とする解雇の場合は、当該条項の内容及び当該条項に該当するに至った事実関係も記載する必要があります(平成15年10月22日基発1022001号)。
なお、解雇予告をせずに即日解雇とした場合は解雇日を記載すると良いでしょう。
なお、従業員が請求していない事項について記入することは禁止されているため、
については、請求がない限り記載することは許されません(同法第22条第3項)。
決められた様式があるわけではありませんが、大阪労働局などのサイトの様式集ではモデル様式が公開されており、次の事項が記載されています。
参考:大阪労働局「労働基準関係法令主要様式集」
最低限これらの内容は必要と考えられますので、解雇理由証明書を作成する場合には、これらの項目は入れるようにしてください。
訴えるかどうか決めているわけではないが、どのような理由で解雇になったのか正確な理由が知りたいという場合です。
解雇理由を聞いてすっきりしたいということもあるかもしれませんが、解雇に納得はしているが、理由だけ知りたいという人はあまりいないと思われるので、理由によっては訴えることも考えているという人が多いのではないでしょうか。
そのため、解雇理由を書くにあたっては、不当解雇であると主張されることがないよう慎重に記載する必要があります。
解雇無効として争う場合、なぜ無効なのかについて解雇理由を示して主張・反論する必要があります。その証拠となるのが、解雇理由証明書です。
解雇に納得しておらず、裁判所に訴えを提起するにあたり、解雇理由証明書を請求してくることが多いといえます。
労働契約法では、
と規定されており、正当な理由なく解雇された場合には無効になります(同法第16条)。
これは正社員だけでなく、パートやアルバイトなども同様です。
そのため、解雇された労働者としては、解雇理由が正当なものではないと主張・反論する資料として解雇理由証明書を求めてくるわけです。
労働者から解雇が無効であるとして訴えられた場合、長期にわたる訴訟にもなりかねません。
敗訴すれば解雇が無効とされるだけでなく、解雇日の翌日以降の分の賃金の支払いが認められる可能性もあります。また、解雇は受け入れるとしても金銭的解決を求めて訴えてくることもあります。
その他、労働組合が団体交渉を求めてくることもあります。
解雇された労働者は会社と雇用契約が終了しているものとして団体交渉を拒否できるようにも思えますが、解雇の有効性自体が争われているため、組合が団体交渉を求めるのであれば、会社はそれに応じる必要があります
以上のとおり、解雇理由証明書が請求されたという時点で訴訟などの何らかのアクションが起こされる可能性が高いといえるでしょう。
これまで説明してきたとおり、解雇理由証明書が求められる場合というのは、何らかのアクションを検討していることが多いので、解雇理由証明書の内容は、労働者本人だけでなく、弁護士、裁判所、紛争調整委員会など第三者も見る可能性があるという前提で作成することが必要です。
つまり、第三者が見ても解雇理由は「客観的に合理的で社会通念上相当な理由がある」と思われるような内容でなければならないということです。
裁判やあっせんということになれば、解雇理由証明書の解雇理由について労働者側が争ってくることが想定されるので、それに耐えられる内容にしておく必要があります。
以下具体的に説明します。
解雇理由を記載する場合、解雇となった具体的な事実をすべて書くことが望ましいです。
たとえば遅刻などの軽微なものであっても、その事実が積み重なることで、解雇はやむを得ないと判断される可能性があるからです。
また、就業規則に定められた懲戒解雇事由にあてはまる事実が多い方が、解雇が有効であると判断される可能性が高まります。
たとえば、遅刻の事実だけでは解雇理由とすることが難しくても、それ以外に飲酒運転で検挙されているような場合には、解雇が有効と判断される可能性は高まります。
従業員がどのような人であっても、根拠もなく解雇することは許されません。
解雇するためには根拠が必要になります。
特に懲戒解雇の場合は就業規則のどの条項に該当したため解雇となったのか明らかにする必要があります。
また、前述の通り、就業規則の一定条項に該当することを理由とする解雇の場合は、当該条項の内容及び当該条項に該当するに至った事実関係も記載する必要があります。
解雇理由証明書は、その後、裁判で利用されることが多いわけですが、そこに書かれた理由以外の事由を事後的に追加して主張しても認められない可能性が高いと考えておいてください。
①懲戒解雇の場合
特に懲戒解雇については、判例において、
として、原則、後付けの理由の追加を否定しています(最判平成8年9月26日)。
②普通解雇の場合
普通解雇の場合、解雇理由証明書への記載がない事由を事後的に追加することも認められないわけではありませんが、裁判所の心証としては、「裁判になったので、後で理由を追加してきた」と思われる可能性が高くなります。
したがって、解雇理由については、慎重に調査し、記載する必要があります。
従業員から解雇理由証明書の発行を求められた場合、会社はすみやかに発行しなければなりませんが、その後に裁判などに発展することが想定されるので、弁護士に相談してから作成することをおすすめします。
できれば、解雇理由証明書の請求があった時点ではなく、解雇する時点で相談した方が問題になりにくいといえます。第三者の目で解雇事由は正当かどうかアドバイスをすることができるので、誤った判断を回避することができます。
解雇理由証明書の請求があった場合、その後、裁判になる可能性が高いので、早い段階で弁護士に相談することで対策を立てることが可能になります。
裁判に発展する前に、弁護士から労働者に対して説明することで、裁判を回避することができることもあります。
解雇理由証明書発行後、裁判まではある程度時間があるので、その期間に裁判になった場合の対策を考えることができます。
裁判になった場合には、会社の代理人として解雇が有効であることを主張・立証していきますが、早い段階から関与していれば、会社側の事情も理解しているので、裁判でも争いやすくなります。
問題社員のトラブルから、
今回は、解雇理由証明書の交付を請求された場合の法律問題について解説してきました。
労働問題は話がこじれると長期化することも多く、また、裁判などに発展すると、社内の従業員にも影響が生じて業務に支障が生じることもあります。
何より、解雇せずに合意退職などで済むのであればそれに越したことはないと考えられますし、解雇するにしても円満に解決できる方策を考えることが重要です。
そのためにも、早めの段階から弁護士に相談して予防措置を講じることが重要です。
日頃から、気軽に法律相談できる顧問契約を締結していれば解雇する場合にも、すみやかに弁護士が対応することが可能です。
ベリーベスト法律事務所では、顧問契約先はもちろん、それ以外の場合でも相談者様の要望にしたがい法的問題の解決にあたります。
当事務所には、労働問題の経験豊富な弁護士がおりますので、解雇理由証明書の交付や解雇などに関してお困りの際はぜひご相談ください。
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