取適法(中小受託取引適正化法)では、対象となる取引について、原則として物品や成果物などを受け取った日から60日以内のできる限り短い期間に、代金の支払期日を定めなければなりません。検収に時間がかかったことなどを理由に、発注者が自由に支払いを先延ばしできるわけではありません。
ただし、すべての事業者間取引に60日ルールが適用されるわけではないため、まずは取引内容や発注者・受注者の事業規模などを確認する必要があります。
本記事では、取適法の60日ルールについて、いつから60日を数えるのか、どのような取引が対象になるのか、発注者から入金がない場合の対処法などをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
取適法の対象となる取引では、原則として、商品や成果物などを受け取った日から60日以内のできる限り短い期間に、代金の支払期日を定めなければなりません。これが、いわゆる「60日ルール」です。
取適法は、発注者との取引で不利益を受けやすい中小事業者を守り、適正な取引を実現するための法律です。従来の下請法(下請代金支払遅延等防止法)が改正・改称され、令和8年(2026年)1月1日から施行されました。
取適法では、代金の支払いを不当に遅らせる行為や、一方的に代金を減らす行為などを規制しています。
そのなかでも、代金をいつまでに支払うべきかを定めたのが「60日ルール」です。
60日を数え始める日は、原則として、発注者が商品や成果物などを受け取った日です。サービスを提供する取引では、その提供を受けた日が基準となります。
たとえば、4月1日に商品を受け取った場合、発注者はその日から60日以内のできる限り短い期間に支払期日を設定する必要があります。
支払期日を定めなかった場合は、商品などを受け取った日(納品日)が支払期日となります。
また、60日を超える支払期日を設定しても、そのまま有効になるわけではありません。法律上は、受領日から起算して60日を経過した日の前日が支払期日とみなされます。
なお、支払期日は、「毎月末日納品締切、翌月○日支払」のように具体的な支払日を特定できるように定める必要があります。「○月○日まで」「納品後○日以内」など、具体的な支払日を特定できない定め方は認められないとされています。
発注者が「まだ検収が終わっていない」と主張しても、それだけで支払期日を後ろにずらすことはできません。
検収とは、納品された商品や成果物が、発注内容どおりかを確認する作業です。
たとえば、4月1日に商品を受け取り、検収が4月20日に終わったとしても、4月20日を基準に支払期日を決めることはできません。
同様に、請求書が届くのが遅れたことを理由として、支払いを遅らせることも原則として認められません。発注者側の事務処理に時間がかかった場合でも、60日ルールを守る必要があります。
月単位の締切制度を採用している場合、60日ルールは、実務上「受領後2か月以内」として運用されています。そのため、31日まである「大の月」が含まれ、暦上60日を超えても、直ちに違反となるわけではありません。
たとえば、7月1日に商品を受け取り、8月31日に支払う場合は61日後となります。しかし、7月と8月をそれぞれ1か月として数えるため、「2か月以内」に収まり、60日ルールに反しないものとして扱われます。
支払日が土日など金融機関の休業日にあたる場合は、一定の条件を満たせば、翌営業日に支払いをずらすことができます。
順延によって受領日から60日(2か月)を超える場合でも、
という条件を満たせば問題とはされません。
なお、順延後も受領日から60日(2か月)以内に収まる場合は、事前に書面などで合意していれば、順延期間が2日を超えても認められます。
60日ルールは、すべての事業者間取引に適用されるわけではありません。取適法の対象になるかどうかは、主に「取引の内容」と「発注者・受注者の事業規模」をもとに判断します。
取適法は、事業者が別の事業者に一定の業務を委託する取引を対象としています。
具体的には、次のような取引です。
このうち、特定運送委託は令和8年1月の改正で新たに対象となりました。
ポイントは、単純な売買取引ではなく、製造や修理、情報成果物の作成、役務の提供などを他の事業者に委託する取引であることです。
取適法上の「委託」に当たるかどうかは契約の名称だけではなく、取引の目的や発注内容、仕様の決定方法など、取引の実質も踏まえて判断されます。
取引内容が対象になっても、それだけで取適法が適用されるわけではありません。発注者と受注者の資本金の関係も確認する必要があります。
主な基準は、以下のとおりです。
| 取引の種類 | 発注者 | 受注者 |
|---|---|---|
| 製造・修理・特定運送・プログラムの作成・情報処理の役務提供など | 資本金3億円超 | 資本金3億円以下 |
| 資本金1000万円超3億円以下 | 資本金1000万円以下 | |
| 情報成果物の作成(プログラム以外)・役務提供(運送・倉庫保管・情報処理以外) | 資本金5000万円超 | 資本金5000万円以下 |
| 資本金1000万円超5000万円以下 | 資本金1000万円以下 |
このように、発注者と受注者の資本金の組み合わせによって適用の有無が変わります。
取適法では、従来の資本金基準に加えて「従業員基準」が設けられました。資本金基準に該当しなくても、常時使用する従業員の数によって対象となる可能性があります。
製造委託や修理委託、特定運送委託などでは「300人」、情報成果物作成委託や役務提供委託の一部では「100人」が基準となります。
具体的には、以下のとおりです。
| 取引の種類 | 発注者 | 受注者 |
|---|---|---|
| 製造・修理・特定運送など | 常時使用する従業員300人超 | 常時使用する従業員300人以下 |
| 情報成果物の作成・役務提供の一部 | 常時使用する従業員100人超 | 常時使用する従業員100人以下 |
資本金だけを見て「取適法は適用されない」と判断しないことが大切です。
個人のフリーランスに仕事を依頼する場合は、取適法だけでなく「フリーランス法」が関係することもあります。
フリーランス法は、従業員を使用しない個人事業主などへの業務委託について、取引条件の明示や報酬の支払いなどのルールを定めた法律です。
フリーランス法にも、原則として給付を受領した日などから60日以内のできる限り短い期間に報酬の支払期日を定めるルールがあります。また、一定の再委託については、元委託支払期日から起算して30日以内のできる限り短い期間に支払期日を定める特則があります。
適用されるルールは、発注者・受注者の規模や取引内容などによって異なります。判断に迷う場合は、契約書や発注書などを用意して弁護士に確認するとよいでしょう。
取適法では、60日ルールを守るだけでなく、代金の支払方法にも注意が必要です。令和8年1月の施行により手形払いが禁止されたほか、電子記録債権などについても一定の規制が設けられています。
取適法の対象となる取引では、手形による代金の支払いは認められていません。支払サイトの長さにかかわらず禁止されているため、「60日以内に満期を迎える手形なら問題ない」という扱いにはなりません。
従来の下請法では手形による支払いも認められていました。しかし、手形では実際に現金を受け取るまで時間がかかり、中小受託事業者の資金繰りを圧迫するおそれがあります。
そこで取適法では、中小受託事業者が代金を速やかに受け取れるよう、手形払いが一律で禁止されました。
電子記録債権や一括決済方式については、利用すること自体が禁止されているわけではありません。ただし、支払期日までに代金相当額の満額を受け取ることが難しい支払方法は認められません。
電子記録債権や一括決済方式などについては、支払期日までに代金相当額の金銭に引き換えることが困難な支払い方法などが、取適法上問題となる可能性があります。
そのため、発注者から現金振込以外の方法を提示された場合は、「いつ現金化できるか」だけでなく、「支払期日までに満額を受け取れる支払い方法かどうか」も確認する必要があります。
取適法では、製造委託等代金を支払期日までに支払わないこと(支払遅延)が禁止されています。そのため、入金がない場合は、取適法の適用対象となる取引か、給付の受領日はいつか、支払期日はいつか、実際に支払われた日はいつかを確認する必要があります。
また、支払期日までに代金が支払われなかった場合には、原則として、給付を受領した日から起算して60日を経過した日から実際の支払日まで、年率14.6%の遅延利息を支払う義務があります。
放置すると未払いが長期化するおそれがあるため、弁護士への相談も含め、早めに回収に向けて動きましょう。
まずは弁護士に相談し、取適法が適用される取引なのか、支払期日を過ぎているのかを確認しましょう。
取適法の適用対象は、取引の内容や当事者の資本金・従業員数などによって決まります。また、実際に代金を回収するには、契約内容や納品の状況なども確認しなければなりません。
契約書や発注書、請求書、納品日がわかる資料などを持参すると、今後どのような方法で請求すべきか具体的なアドバイスを受けられます。
支払期日を過ぎても入金がなければ、まずは発注者に連絡し、支払いを求めます。
単なる経理上のミスであれば、電話やメールによる催促だけで支払われることもあります。その際は、未払い額や支払期日を明確に伝え、新たな支払予定日を確認しましょう。
一方、「検収が終わっていない」「請求書が届くのが遅かった」などを理由に支払いを拒まれた場合は、取適法に反する可能性があります。相手の回答をメールなど記録に残しておくと、その後の交渉や法的手続きでも役立ちます。
催促しても支払われない場合は、内容証明郵便を利用して請求する方法も検討してみてください。
内容証明郵便とは、「いつ、どのような内容の文書を、誰から誰に送ったのか」を郵便局が証明してくれるサービスです。
未払い額や支払期限などを明記して請求することで、発注者に支払いを強く促せます。また、弁護士名義で通知すれば、法的措置を検討していることが伝わり、相手が交渉に応じるケースもあります。
催促や内容証明郵便でも支払われない場合は、裁判所に訴訟を提起して代金を請求することを検討します。
裁判で勝訴しても相手が支払わない場合は、預貯金などを差し押さえて回収する「強制執行」を行うことも可能です。
どの段階まで手続きを進めるべきかは、未払い額や相手の対応、今後の取引関係などによって変わります。早い段階で弁護士に相談しておけば、状況に合った回収方法を選びやすくなるでしょう。
取適法では、中小受託事業者が代金を適切な時期に受け取れるよう、60日ルールをはじめとする支払いに関するルールが設けられています。
発注者からの入金が遅れている場合、「取引先との関係を悪くしたくない」と考え、強く催促できずにいる方もいるでしょう。しかし、対応を先延ばしにすると、未払いが長期化するおそれがあります。
ベリーベスト法律事務所では、取適法が適用されるかどうかの確認から、発注者との交渉、内容証明郵便の送付、訴訟による代金回収まで、状況に応じた対応をご提案できます。
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