「みなし残業は、月何時間まで設定してよいのだろうか」
「現在、みなし残業時間として月60時間を設定しているが、法律上問題はないのだろうか」
みなし残業制(固定残業代制)の導入や見直しを検討している企業では、このような疑問を持つこともあるでしょう。
固定残業時間に一律の法定上限はありませんが、長時間の設定には無効となるリスクがあります。また、実際の時間外労働には36協定上の限度時間があるほか、法定の割増賃金額が固定残業代を上回れば差額の支払いが必要です。
本記事では、固定残業時間の考え方と運用上の注意点をベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
みなし残業時間について、法律で一律に「月○時間まで」と決められているわけではありません。ただし、企業が自由に何時間でも設定できるという意味ではないため注意が必要です。
まずは、みなし残業制の仕組みと、時間数を決める際の考え方から確認していきましょう。
みなし残業制とは、一定時間分の残業代を給与に含めて支給する仕組みです。「固定残業代制」とも呼ばれます。
たとえば、「基本給25万円+固定残業代5万円(30時間分)」のように、一定額を残業代として毎月支給する制度がこれにあたります。
なお、名前が似ている「みなし労働時間制」とは別の制度です。
みなし労働時間制は、事業場外で働いていて労働時間を把握しにくい場合などに、一定時間働いたものとして扱う仕組みを指します。
労働基準法には、固定残業代の対象とする時間数について、「月30時間まで」「月45時間まで」といった直接的な上限はありません。
そのため、月45時間を超えて設定しただけで、直ちに違法になるわけではありません。
ただし、極端に長い時間数を設定すると、固定残業代の定め自体が無効になる可能性があります。労働者の健康や生活を守るという法律の考え方に反し、民法上の「公序良俗」に反すると判断されることがあるためです。
したがって、「法律に明確な上限がない=何時間でも設定できる」と考えるのは適切ではありません。
固定残業時間を検討する際には、36協定における時間外労働の原則的な限度時間である月45時間を、ひとつの目安とする考え方があります。
労働基準法では、36協定を締結した場合でも、時間外労働の上限は月45時間・年360時間が原則です。月45時間を超えた残業も例外的に認められることはありますが、恒常的に超過することは労働基準法上は想定されていません。固定残業代は、通常行われる労働時間を基準に設定すべきものですので、45時間を超えて設定しているのであればそもそもの制度設計に端から問題があると評価される危険もあります。そのため、45時間を超えて設定することは、推奨されません。
そのため、固定残業時間を設定する際には、天井を月45時間までとして参考にしつつ、自社の勤務実態なども踏まえて検討することが重要です。
新たに制度を導入する場合は、36協定上の原則的な限度時間などを踏まえながら、自社で実際に発生している残業時間も確認したうえで、無理のない時間数を設定しましょう。
問題社員のトラブルから、
月80時間など、過労死ラインに達するほど長い時間をみなし残業時間に設定すると、制度の内容や実際の勤務状況などによっては、その定めが無効になる可能性があります。
時間数だけで一律に有効・無効が決まるわけではありませんが、弁護士としては推奨しません。ここでは、過労死ラインの考え方と、無効になった場合に企業へどのような影響があるのかを見ていきましょう。
「過労死ライン」とは、長時間労働による脳・心臓疾患について、仕事との関連性を判断する際の目安となる時間数です。
厚生労働省の労災認定基準では、発症前1か月におおむね100時間、または発症前2~6か月間の平均で月80時間を超える時間外労働がある場合、仕事と発症との関連性が強いと評価されます。
つまり、月80時間や100時間という水準は、労働者の健康に深刻な影響を及ぼすおそれがある長時間労働の目安といえるでしょう。
過労死ラインに達するような時間数をみなし残業時間とすることには、大きなリスクがあります。
たとえば、毎月80時間分の固定残業代を設定すると、それだけの長時間労働をあらかじめ想定した給与体系と受け取られかねません。
労働者の健康を害するほど長い固定残業時間については、公序良俗に反するとして、固定残業代の定めが無効と判断される可能性があります。
一方で、月87時間相当の固定残業代について、特段の事情がない限り、基本給の一定額を月80時間分相当の時間外労働に対する割増賃金とする定めは、公序良俗違反として無効とするのが相当と判断しつつ、結論としては当該事案については有効と判断した裁判例もあります。ただ、当該事案は特段の事情が認められたにすぎず、原則無効とされるような制度設計は、弁護士としては全くおすすめしませんし、制度設計の見直しをご提案します。
固定残業代の定めが無効になると、会社が固定残業代として支給していた金額を、残業代の支払いとして扱えなくなる可能性があります。
たとえば、以下のような給与を設定していたとしましょう。
固定残業代の定めが有効であれば、10万円は80時間分の残業代として支払ったものと扱われます。しかし、この定めが無効になると、10万円を固定残業代として割増賃金の支払いに充当できない場合があるため、注意が必要です。
さらに、手当の性質や固定残業代の定めが無効となった理由によっては、この10万円が割増賃金を計算する際の基礎となる賃金に含めて計算しなければなりません。
そうすると、固定残業代として支給した金額を割増賃金の支払いに充当できないだけでなく、割増賃金の算定基礎にも影響する可能性があるため、会社が想定していたよりも高額な未払い残業代を請求されるおそれがあります。
このように固定残業代の定めが無効になると、企業に大きな金銭的負担が生じる可能性があることに注意してください。
無効の評価を受けないようにするためには、労働基準法が許容する残業時間を逸脱する、時給が最低賃金を下回るような時間と対価を設定するなど、法律が許容しない状態が生じるのを回避することが肝要です。
みなし残業時間を適切に設定していても、それだけで固定残業代制が有効になるわけではありません。給与の示し方や実際の残業時間の管理など、運用面でも注意すべきポイントがあります。
固定残業代制を導入する際は、通常の賃金と固定残業代を明確に区別する必要があります。
たとえば、「月給30万円(残業代を含む)」という記載だけでは、30万円のうち、いくらが通常の賃金で、いくらが残業代なのか分かりません。「基本給25万円、固定残業代5万円」のように、それぞれの金額が分かる形で雇用契約書や給与明細などに記載しましょう。
両者の区別が曖昧だと、固定残業代として支払ったことが認められず、別途残業代の支払いが必要になる可能性があります。
固定残業代の金額だけでなく、何時間分の残業を対象としているのかについても、契約書や就業規則、給与明細などでできる限り明確にしておくことが望ましいでしょう。
たとえば、「固定残業代5万円(時間外労働30時間分)」という形で対象時間数を示しておけば、従業員にとって固定残業代の内容が分かりやすくなります。
また、固定残業代の対象が通常の時間外労働だけなのか、深夜労働や休日労働も含むのかについても、誤解が生じないよう明らかにしておくことが大切です。
固定残業代を支給していても、実際の労働について法定の方法で計算した割増賃金額を下回る金額しか支払われていない場合には、その差額を別途支払わなければなりません。
つまり、追加支給が必要かどうかは、単純に「固定残業時間を何時間超えたか」だけではなく、実際の時間外・休日・深夜労働について法定の方法で計算した割増賃金額と、固定残業代として有効に支払われた金額を比較して判断します。
特に注意したいのが、時間外労働が月60時間を超えた場合です。
月60時間を超える部分については、原則として50%以上の割増率が適用されます。そのため、固定残業代で不足する金額があれば、差額を追加で支払わなければなりません。
固定残業代制を導入していても、企業による労働時間の管理は必要です。
「毎月30時間分の残業代を払っているから、残業時間を確認しなくてもよい」という運用はできません。実際の残業時間が固定残業時間を超えているかどうかを確認できなければ、追加の残業代が必要か判断できないためです。
そのため、タイムカードや勤怠管理システムなどを利用し、始業・終業時刻を正確に記録するようにしましょう。固定残業時間を超える勤務が続いている場合には、追加の残業代を支払うだけでなく、業務量や人員配置の見直しを検討することも考えられます。
みなし残業制は、時間数だけでなく、賃金の決め方や雇用契約書の記載、実際の運用まで含めて制度を設計することが必要です。導入方法に迷ったときや現在の制度に不安があるときは、労働問題に詳しい弁護士へ相談することをおすすめします。
弁護士に相談すれば、労働基準法のルールや自社の勤務実態を踏まえて、固定残業時間や固定残業代の設定について法的観点から検討できます。
また、時間数を決めるだけでなく、基本給とのバランスや割増賃金の計算なども確認することが可能です。
これにより制度を導入した後に「固定残業代の金額が足りなかった」といった問題が起きるリスクを抑えられるでしょう。
固定残業代制を導入する際は、その内容を雇用契約書や就業規則などに適切に反映させる必要があります。
弁護士に依頼すれば、固定残業代の金額や対象となる時間数、超過分の取り扱いなど、必要な事項が正しく記載されているかチェックが受けることが可能です。
書類上のルールと実際の運用に食い違いが生じないよう、導入段階から確認しておくことがトラブルの予防につながります。
すでにみなし残業制を導入している企業でも、弁護士が制度の適法性を確認することができます。
固定残業時間が長すぎないか、固定残業代の計算方法に問題がないか、超過分を正しく支払っているかなどを確認し、問題があれば早めに見直すようにしましょう。
固定残業代の定めが無効になると、高額な未払い残業代を請求されるおそれがあります。従業員とのトラブルが起きてから対応するのではなく、不安な点がある段階で弁護士に相談しておくと安心です。
問題社員のトラブルから、
固定残業時間には法律上の明確な上限がないからこそ、自社だけで適切な時間数を判断するのが難しい面もあります。また、時間数だけでなく、固定残業代の金額や雇用契約書の記載、実際の運用にも注意が必要です。
制度の導入や見直しに不安がある場合は、労働問題に詳しい弁護士へ相談し、自社に合った制度を整えていきましょう。まずは、労働問題に強いベリーベスト法律事務所までご相談ください。
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