取締役は、株主や従業員、取引先等のステークホルダー、さらには社会全体に対する責任が、従業員だったときよりもはるかに役割として大きくなります。
その責任は、抽象的なものが多くわかりにくいのですが、中でも重要なものが善管注意義務です。
本コラムでは、善管注意義務の概要と重要性について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
善管注意義務と忠実義務の関係には、諸説ありますが、判例は、善管注意義務を敷衍(ふえん)して一層明確したものが忠実義務であり、両者の義務は基本的に同じであると考えています。
取締役の善管注意義務・忠実義務から認められる、さらなる3つの義務について確認していきましょう。
監視義務とは、会社法362条2項2号に定められた取締役に対して課された義務のひとつです。その主な目的は、代表取締役および他の取締役、その他使用人等の業務執行を、取締役会等を通じて監視することにあります。
しかし、特に、業務が多角化・細分化している大企業においては、限られた数の取締役で、会社の業務執行を監視し、その責任を負うことは現実的ではありません。
実際、破綻した商品先物取引会社の取締役に対する責任が問われた裁判で、担当業務が専門化されているような取締役においては、自分の担当業務以外の分野について、個別具体的な業務執行の監視は事実上不可能であり、内部管理体制を構築し、その管理体制に基づいて、自分の担当業務以外の業務執行については、取締役会で上程された事項や別途知り得た事項に限って監督監視の義務を負うと判示しています(東京地判平19.5.23)。
内部統制とは、「業務の有効性と効率性」「財務報告の信頼性」「事業活動に関わる法律や規則等の遵守」「資産の保全」に分類される目的を達成することを合理的に保証するために設計された管理・監督プロセスのことをいいます。
内部統制システムの構築が義務付けられている背景は、会社の事業規模が大きくなると、取締役が役職員の違法行為や業務上の重大な過誤を事前に察知して止めることが困難であり、そのような事態が起きないための組織やルールなどの仕組み、すなわち内部統制システムを構築しておいた方が不祥事予防の観点から効果的と考えられているためです。
また、内部統制システムは自社単体だけではなく、子会社を含めた企業グループベースでの構築と運用が求められます(会社法362条4項6号および会社法施行規則100条)。
別の見方をしますと、適正な内部統制システムを構築する義務を果たしてさえいれば、基本的には、他の役職員の行動が適法であるものと信頼してよく、万が一、役職員の違法行為によって会社に損害が生じたとしても、直ちに監視義務違反に問われるわけではないということです(「信頼の原則」)。
会社は株主のものであり、取締役をはじめとする経営陣は、株主の利益を最大化することを目指す義務があります。取締役は、経営に裁量があるといえど、会社の利益のみを優先させてはならないのです。
このような義務が裁判例として明らかになったのが、レックスMBO事件(東京地裁平成23年2月18日判決)です。
この事件は、被告会社に吸収合併されたレックスの株主が、被告会社によるレックス株式のMBOによる買い取り価額は不当に安く、株主の利益に対する配慮に欠けていることを理由に、被告会社とレックスの旧経営陣を訴えたものです。
これについて裁判所は、「株式会社の取締役は、株主の共同利益に配慮する義務を負っている」と原告の訴えを認めています。
競業取引とは、取締役が、会社と同種の事業を営んだり、競業他社の代表取締役として取引をすることです。
取締役が競業取引を行うためには、事前に重要事実を説明したうえで取締役会の承認を得て(会社法356条1項1号・365条1項)、事後報告も行わなければなりません(会社法365条2項)。これを競業取引規制といいます。
単に競業他社の取締役に就任するだけでは、競業取引には該当しないとの見方がありますが、代表取締役あるいは実質的に取引の決定権を有する取締役に就任する場合は、競業取引規制の対象となります。
なお、競業取引を行う取締役は、競業取引を承認する取締役会で「特別の利害関係を有する者」として議決権を有しません。
利益相反取引とは、会社と取締役との間で利益が相反する可能性のある取引をいい、以下のように3つの類型があります。
利益相反取引を行う場合、取締役は、事前に取締役会の承認を得ておく必要があります(会社法356条1項2号・3号、365条1項)。
ただし、定型的かつ均一条件的な取引、たとえば取締役が、自社で一般の顧客と同じように買い物をする場合などは、取締役会での承認手続は不要と解されています。
また、兼務取締役のいる完全親子間係の会社間の取引についても、利益相反取引にはあたらないと考えられていますが、債権者への責任回避の観点から、事前に取締役会の承認を得るべきとの見方もあります。
利益相反取引により会社に損失が発生した場合、利益相反取引の当事者である取締役および利益相反取引に関する取締役会の承認決議に賛成した取締役は、会社に対する任務を怠ったものとされます(会社法423条3項)。この場合、利益相反取引の当事者は無過失責任とされます(会社法428条1項)。
取締役の報酬は、お手盛りとなって、会社の利益を害することを避けるため、定款か株主総会決議で決めることになっています。これが報酬規制です(会社法361条1項)。
報酬規制では、報酬の金額が確定しない場合は算定方法等の基準を、金銭以外で支給する報酬は具体的な内容を定めることとされています。
合理的かつ誠実に行った経営判断の結果については、取締役の善管注意義務違反にはなりません。これを経営判断の原則といいます。アパマンショップ株主代表訴訟判決(最高裁平成22年7月15日)に見られるとおり、善管注意義務違反に関する司法判断基準となっています。
取締役の経営判断を問う要件としては、以下が考えられます。
取締役に善管注意義務違反が認められた場合、いったいどのようなリスクが発生するのでしょうか。
任務懈怠とは、善管注意義務という取締役にとって中核的な義務に対する違反のことです。これは、取締役の不作為についても適用されます。
任務を懈怠した取締役は、損害賠償責任を負い(会社法423条1項)、株主は、会社が当該取締役に対して損害賠償を請求しない場合、株主代表訴訟を提起できます。
取締役は、自己の任務懈怠に起因して、第三者に損害を与えた場合は、任務懈怠が悪意または重過失によるものであれば、第三者に損害を賠償する責任を負います(会社法429条)。
取締役の任務懈怠により生じた損害に対する賠償額は、被った損害額および取締役の過失の程度により、判断がなされます。
それでは、取締役の損害賠償責任を減免させる方法はあるのでしょうか。
取締役の損害賠償責任を免除するためには、原則として、株主全員の同意が必要です(会社法424条)。
この場合、株主総会を開く必要はなく、個別株主から同意書を取り付ける方法でもよいとされています。
免除については株主全員の同意しか方法がなかった一方で、軽減については4種類が用意されています。
「取締役」と一言で言っても、会社ごとにその実情はさまざまです。どのような取締役に損害賠償責任が生じるのでしょうか。
社外取締役とは、当該会社、親会社または子会社の役職員ではなく、会社や経営陣と利害関係のない人から選ばれた取締役です。
近年は、取締役会の監督機能強化のために、社外取締役をおく会社が増えています。
当然ながら、社外取締役も善管注意義務や監視義務を負います。
しかし、先述のとおり、社外性や業務執行に関与していないことを考慮して、会社に対する責任を減免することができます。
名目的取締役とは、会社法に定められた選任手続を経て取締役に就任しているものの、会社と取締役としての職務を果たさなくてもよいと合意しているなど、実際には取締役としての職務を行っていない取締役のことです。
名目的取締役といえど、法律上は取締役ですから、善管注意義務や監視義務を負います。そして、実際には取締役としての職務を行っていないのですから、任務懈怠は認められることになりやすいでしょう。
しかし、名目的取締役の責任を問われた下級審の裁判例では、任務懈怠自体は認められるとしても、会社経営に対する影響力がないことから、損害との因果関係を欠く等の理由で、その責任を否定するものが多いのが実情です。
登記簿上の取締役とは、法律上は取締役ではないにもかかわらず、取締役として登記されている人のことであり、以下2つに分類されます。
事実上の取締役とは、株主総会の決議によって取締役に選任されておらず、取締役として登記もされていないものの、実質的に取締役として業務執行している人のことです。
事実上の取締役は、取締役として、その責任を認めるべきという裁判例があります(京都地裁平成4年2月5日判決)。
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