2026年から改正労働安全衛生法が段階的に施行されます。
今回の改正では、一人親方やフリーランスなどの個人事業者に対する安全衛生対策が強化されるほか、化学物質管理や機械設備に関するルールの見直しも行われています。
安全衛生対策を怠ると、労災事故による業務停滞だけでなく、行政処分や損害賠償請求につながるおそれがあります。そのため、対象となる企業の担当者の方は、変更点を正しく理解して、安全衛生対策を適切に行っていくようにしましょう。
今回は、2026年以降に施行される労働安全衛生法改正のポイントを整理したうえで、企業に求められる対応や注意点をベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
労働安全衛生法とは、働く人の健康と安全を守り、快適な職場環境をつくるための法律です。
同法により企業には、危険な作業への対策、機械設備の管理、健康診断の実施など、さまざまな義務が課されています。
労働安全衛生法は、労働者の高齢化による労災の増加とフリーランスなどの個人事業主の増加を背景に改正が行われ、2026年1月1日から段階的な施行が始まっています。
今回の改正では、主に以下のような内容が見直されています。
問題社員のトラブルから、
近年は、一人親方やフリーランスなどの個人事業者が、労働者と同じ現場で作業するケースが増えています。従来の労働安全衛生法では、こうした個人事業者等は保護の対象外でしたが、今回の改正では、個人事業者等も含めた安全衛生対策が強化されています。
これまでの労働安全衛生法では、自社の労働者または請負人の労働者だけが安全衛生対策の対象でした。
しかし、労働者とフリーランス・一人親方などの個人事業主は、担当業務が似通っているケースが多く、同じ場所で作業する場合、個人事業主によるミスで労災が発生する危険性もあります。
そこで労働安全衛生法改正では、労働者だけでなく、一人親方やフリーランスなどの個人事業者等(=労働者以外の作業従事者)についても、安全衛生対策の対象に含まれました。
事業者は、2026年4月以降、労働者と同じ現場で作業を行う個人事業主等に対して、以下のような安全衛生対策を講じることが義務付けられます。
| 安全衛生対策の内容 | 対象となる事業者 |
|---|---|
| 統括安全衛生責任者による統括管理 | 特定元方事業者 ※元方事業者(=事業の仕事の一部を請負人に対して発注する者)であり、建設業または造船業を行うもの |
| 店社安全衛生管理者による混在作業時の労働災害の防止措置 土砂等の崩壊、機械等の転倒による危険の防止措置 |
建設業の元方事業者 |
| 爆発、火災等の発生に伴う救護活動時の労働災害の防止措置 | 建設業などの事業者 |
| 混在作業時の労働災害の防止措置 | 特定元方事業者 |
| 建設物・設備・原材料を労働者と個人事業者等に同じ場所で使用させる場合の労働災害の防止措置 | 建設業・造船業の仕事を自ら行う注文者 |
| 機械による危険度の高い作業(=特定作業)時の労働災害の防止措置 | 建設業を行う発注者または元請負人であって、特定作業に係る仕事を自ら行うもの |
| 安全衛生対策の内容 | 対象となる事業者 |
|---|---|
| 関係請負人およびその作業従事者に対する必要な指導、指示 | 元方事業者 |
| 混在作業時の労働災害の防止措置 | 製造業の元方事業者 |
| 安全衛生対策の内容 | 対象となる事業者 |
|---|---|
| 請負人に対し労働安全衛生法令に違反する指示をしない | すべての注文者 |
近年は、化学物質による健康被害への対応が大きな課題となっています。
実際、工場や研究施設だけでなく、清掃業、印刷業、物流業などでも、化学物質を扱う場面は少なくありません。
こうした背景から、2026年以降は、化学物質管理に関するルールがさらに強化されます。
今回の改正では、「情報共有の強化」と「作業環境管理の拡大」が大きなポイントです。
労働者に危険や健康障害を生じるおそれがある一定の化学物質(通知対象物)については、譲渡・提供する際に、相手方へ必要な情報を通知する義務があります。
通知が必要な事項としては、主に以下のような内容が挙げられます。
もっとも、化学物質の成分名は、企業にとって重要なノウハウである場合も少なくありません。特に研究開発中の製品などでは、成分情報そのものが営業秘密として管理されているケースがあります。
そこで2026年4月1日からは、有害性が比較的低い通知対象物について、一定の条件を満たす場合に限り、実際の成分名ではなく「代替化学名等」による通知が認められるようになりました。
なお、代替化学名等を使用した場合、企業には実際の成分情報を記録・保存する義務があります。
また、医師が診断や治療のために必要と判断した場合には、企業は実際の成分名を直ちに開示しなければなりません。
有害な業務を行う作業場では、空気中の有害物質濃度などを測定・分析する「作業環境測定」が義務付けられています。
2026年10月1日からは、従来の対象業務だけでなく、健康障害防止措置等を講ずる必要があり、厚生労働省令で定める場合にも、作業環境測定の実施が義務付けられます。
つまり、これまで測定義務がなかった業務でも、新たに対象となる可能性があります。
また、今回の改正では、「個人ばく露測定」が作業環境測定の項目に追加されます。
個人ばく露測定とは、労働者が実際にどの程度、有害物質にさらされているかを確認するための測定です。個人ばく露測定を実施する際には、有資格者による測定が義務付けられています。
今回の改正では、化学物質を扱う企業に対して、これまで以上に適切な管理体制が求められます。
まずは、自社でどのような化学物質を使用しているかを整理することが重要です。
そのうえで、
などを進める必要があります。
労災事故の中には、機械設備の操作ミスや故障が原因となるものも少なくありません。こうした事故を防ぐため、以下のような改正が行われています。
油圧シャベルやフォークリフトなど、危険性の高い機械については、毎年1回、有資格者による特定自主検査を実施する必要があります。
また、高圧室内作業やクレーン運転などの危険業務については、技能講習の受講が義務付けられています。
しかし近年は、
といった問題が指摘されていました。
そこで2026年1月1日からは、特定自主検査の実施基準が施行され、基準違反をした検査業者に対して行政処分が可能となります。
また、技能講習についても、不正な修了証交付が禁止され、不正を行った者に対する行政処分(回収命令・欠格期間の延長)が定められました。
ボイラーやクレーンなど、危険な作業を要する機械等(特定機械等)については、製造時に都道府県労働局長の許可を受けなければなりません。
また、実際に製造などを行う際には、「製造時等検査」を受ける必要があります。
2026年4月1日からは、これらの審査・検査制度を効率化するための制度が施行されています。
具体的には、登録を受けた民間機関(登録設計審査等機関)が、一定の審査業務を担当できるようになりました。
また、移動式クレーンやゴンドラについては、登録設計審査等機関が製造時等検査を行うことが可能です。
今回の改正では、機械設備に関する安全管理体制の見直しが行われています。
対象となる企業は、
などを改めて確認しておく必要があります。
また、協力会社の作業員が機械設備を使用する現場では、資格確認や安全ルールの共有も欠かせません。
重大事故が発生した場合、行政処分や損害賠償につながるおそれもあるため、法改正を機に現場管理を見直すことをおすすめします。
2~4章で解説した主な改正点のほかにも、労働安全衛生法改正により以下のような変更があります。
平均寿命の伸びや少子高齢化の影響もあり、近年は高齢労働者の雇用継続が進んでいます。
もっとも、高齢になると、身体能力や判断能力の低下によって、転倒や腰痛などの労働災害リスクが高くなる傾向があります。
そこで2026年4月1日からは、事業者に対し、高齢労働者の特性に配慮した労働災害防止対策を講じる努力義務が課されます。
具体的には、
などが想定されています。
企業としては、厚生労働省が公表している指針も参考にしながら安全対策を進めていきましょう。
近年は、病気の治療を受けながら働く人が増えています。
がん、糖尿病、脳卒中、難病、メンタルヘルス不調など、長期的な治療が必要となるケースも少なくありません。
こうした背景から2026年4月1日より、治療と仕事の両立支援がすべての企業で努力義務化されます。
これは、治療中の従業員が離職せず働き続けられるよう、企業に対して体制整備や環境づくりを求めるものです。
具体的には、
などが想定されています。
2028年5月までに、ストレスチェックや高ストレス者への面接指導の対象範囲が拡大されます。
現在、事業者には原則として年1回のストレスチェック実施義務があります。しかし、常時使用する労働者が50人未満の事業場では、当分の間は努力義務とされていました。
今回の改正により、50人未満の事業場でも、年1回のストレスチェック実施が義務化されます。
そのため、小規模事業場においても、
などを準備しておく必要があります。
安全管理が不十分な状態で事故が起きれば、従業員の生命・健康に重大な影響を与える可能性があります。また、企業経営にも大きなダメージが及ぶおそれもあるでしょう。
そのため、法改正への対応とあわせて、自社の安全管理体制を見直すことが重要です。
労災事故が発生すると、現場作業の停止や原因調査が必要になる場合があります。
建設業や製造業、物流業では、1件の事故によって工期の遅れや生産停止につながる可能性もあります。
また、事故対応に追われることで、通常業務に大きな支障が出るケースもあります。
労働安全衛生法に違反すると、労働基準監督署から是正勧告や行政指導を受ける可能性があります。
改善対応が不十分なケースでは、企業名が公表されることもあります。
取引先や採用活動へ影響が及ぶおそれもあるため、軽視はできません。
また、重大な労災事故が発生した場合には、企業だけでなく、経営者や現場責任者が刑事責任を問われることもありますので注意が必要です。
企業には、従業員が安全に働ける環境を整える「安全配慮義務」があります。
そのため、安全対策の不備によって労災事故が発生した場合、企業が損害賠償責任を負う可能性もあるでしょう。
特に、
などでは、高額な賠償につながるリスクがあるため、労働安全衛生対策をしっかりと行わなければなりません。
近年は、労災事故や安全管理上の問題がSNSやニュースで広く拡散される時代です。
一度「安全管理が不十分な会社」というイメージが付くと、企業活動に長期的な影響が出ることがあります。
安全衛生対策は、従業員を守るだけでなく、会社の信用や事業継続を守るためにも重要です。
法改正への対応に不安がある場合は、弁護士へ相談し、自社の安全管理体制や社内ルールを早めに見直しておくことをおすすめします。
問題社員のトラブルから、
2026年以降の労働安全衛生法改正では、個人事業者への安全配慮、化学物質管理、機械設備の安全対策、高齢労働者やメンタルヘルスへの対応など、企業にはさまざまな対策が求められています。
特に建設業や製造業、物流業では、現場管理の見直しが必要になる場面も増えるでしょう。
顧問弁護士がいれば、労働安全衛生法への対応だけでなく、労務トラブル、ハラスメント対応、契約書チェックなど、幅広い法務サポートを受けられます。
法改正への対応に不安がある場合は、早めに弁護士へ相談するようにしましょう。
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