管理職の能力不足が目立ち、「今の役職を任せ続けるのは難しいかもしれない」と悩んでいる企業担当者の方もいるでしょう。
降格は、従業員にとって大きな不利益となるため、進め方を誤ると「不当な人事だ」と反発を受けたり、労働審判や訴訟に発展したりするおそれがあります。特に、減給を伴うケースや懲戒処分として降格を行うケースでは、慎重な検討が欠かせません。
今回は、能力不足による降格人事が認められる条件や必要な手続き、人事権の限界、トラブルを防ぐための実務上の注意点について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
能力不足を理由とする降格人事には、主に「人事権に基づく降格」と「懲戒処分としての降格」の2種類があります。
同じ降格でも、求められる要件や判断基準は異なります。まずは、それぞれの違いと基本的な考え方を確認しておきましょう。
降格人事には、大きく分けて以下の2種類があります。
能力不足が見られる場合でも、それだけで直ちに降格できるわけではありません。
人事権に基づく降格処分と懲戒処分としての降格処分では要件が異なり、会社が自由に判断できるものではないためです。
能力不足の内容や改善機会の有無なども考慮しながら、慎重に判断する必要があります。
具体的な要件については2章以降で詳しく解説します。
問題社員のトラブルから、
人事権に基づく降格処分では、会社に一定の裁量が認められます。
もっとも、「能力が足りないと感じる」という理由だけで自由に降格できるわけではありません。客観的な事情や処分内容の相当性が求められ、進め方によっては無効と判断される可能性もあります。
なお、ひとくちに降格といっても、「役職・職位の引き下げ」と「職能資格・等級の引き下げ」では、求められる根拠や要件が異なります。役職の引き下げは厳格な要件までは求められずに行える場合がありますが、職能資格・等級の引き下げには就業規則等に明示的な根拠規定があることに加えて、そのような処分が必要であることについての相応の必要性が求められます。この違いは、後述する減給にも関わる重要なポイントです。
ここでは、人事権に基づく降格処分が認められる要件や問題になりやすいケースを確認しましょう。
能力不足を理由とした降格が認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。
能力不足を理由とした降格が認められやすいのは、管理職として求められる役割を十分に果たせていないことが明らかなケースです。
たとえば、以下のような状況が考えられます。
会社側に広い裁量が認められるとはいえ、降格が常に有効になるとは限りません。
不当な目的があったり、不利益が大きすぎたりする場合は、「人事権の濫用」として無効になる可能性があります。
降格人事では、役職の引き下げに伴い、減給が行われるケースも少なくありません。
もっとも、降格したからといって、会社が自由に給与を下げられるわけではありません。
たとえば、職位ごとの賃金テーブルや役職手当制度がある会社では、部長から課長へ降格した場合に、役職手当がなくなったり、職位に応じた給与水準へ変更されたりすることがあります。このように、あくまで職位を変えざるを得なくなった結果、適用される給与の計算もかわって減給になったような、制度上あらかじめ仕組まれている減給は認められやすいといえます。
一方で、基本給を引き下げるためには、役職の変更だけでなく、職能資格や等級の引き下げが伴うことが多く、その場合は就業規則に明示的な根拠規定に加え、職能資格・等級を引き下げる必要性や、それに伴って基本給を引き下げる必要性が認められることが求められます。根拠規定がないまま基本給を引き下げると、不利益変更として争われる可能性があり、無効と判断されるリスクもあります。
懲戒処分としての降格は、人事権に基づく降格処分よりも厳しく判断されます。
ここでは、懲戒処分としての降格が認められる要件や注意点を解説します。
懲戒処分としての降格処分が認められるには、以下の要件を満たす必要があります。
能力不足が見られるからといって、直ちに懲戒処分としての降格ができるわけではありません。
懲戒降格は、規律違反などに対する「制裁」です。そのため、単なる能力不足だけでは、懲戒処分の理由として不十分です。
たとえば、「部下の育成が苦手」「部署の成果が上がらない」「マネジメントがうまくいっていない」といった事情は、管理職としての適性に関わる問題です。基本的には、2章で解説した人事権に基づく降格処分として検討すべきでしょう。
能力不足以外にも問題がある場合には、懲戒処分を検討することになりますが、いきなり重い処分を行うのは避けることが重要です。
まずは口頭注意や面談を行い、改善を促すケースが一般的です。それでも改善が見られない場合は、譴責(けんせき)や戒告(かいこく)などの比較的軽い懲戒処分を検討し、それでも状況が改善しないときに、より重い処分を考える流れが望ましいでしょう。
その際は、事前に本人が弁明できる機会を設けたうえで、面談記録や指導履歴、注意書面などを残しながら、段階を踏んで対応することで、後のトラブル予防にもつながります。
降格人事は、従業員にとって大きな不利益となることがあります。特に管理職の場合、役職や待遇だけでなく、プライドにも関わる問題です。
そのため、「納得できない」「不当な処分だ」と強く反発されるケースも少なくありません。
こうした場合は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
ここでは、降格人事を拒否されたときの対処法と弁護士に相談するメリットについて解説します。
降格に反発された場合、会社側が一方的に押し切ろうとするのは避けた方がよいでしょう。
まずは、なぜ降格が必要なのかを客観的な資料に基づいて説明することが重要です。
たとえば、人事評価、業績の推移、面談内容、改善指導の履歴などがあれば、本人も状況を理解しやすくなります。
「能力不足だから」と抽象的に伝えるだけでは、本人は納得しにくいものです。どの点に課題があり、どのような改善を求めてきたのかを具体的に説明することで、不要な対立を防ぐことができます。
降格に反発されると、会社側も感情的に対応してしまいがちです。しかし、「言った・言わない」の争いになると、後々トラブルが大きくなるおそれがあります。
そのため、本人との対立を避けながら、やり取りの記録を残しておくことが重要です。
たとえば、面談では能力不足と判断した理由や改善点を具体的に説明し、その内容を記録しておきましょう。面談メモや議事録を作成しておけば、後に「突然降格させられた」と主張された場合にも、会社側の説明経緯を示しやすくなります。
また、人事評価、業績データ、改善指導の履歴、注意書面なども整理しておきましょう。客観的な資料があることで、降格判断の合理性を説明しやすくなります。
能力不足を理由とする降格人事は、判断が難しい場面も少なくありません。
「この程度で降格できるのか」「減給まで行って問題ないのか」と悩むケースもあるでしょう。
対応を誤ると、不当降格を理由に労働審判や訴訟へ発展するおそれがありますので注意が必要です。
弁護士に相談すれば、就業規則や人事制度を踏まえながら、降格が有効と認められる可能性や、進め方の注意点についてアドバイスを受けられます。
特に、従業員との対立が深まっているケースでは、早めに相談しておく方が安心です。事前の準備が、その後のトラブル防止につながります。
問題社員のトラブルから、
能力不足を理由とする降格人事は、一定の場合に認められます。しかし、「成果が出ていないから降格」と単純に判断できるものではありません。人事権に基づく降格なのか、懲戒処分としての降格なのかによって要件は異なり、進め方を誤ると無効になる可能性もあります。
特に、客観的な根拠が不十分なまま降格を行ったり、減給を伴う処分を安易に決めたりすると、労務トラブルへ発展しかねません。面談記録や評価資料を残し、改善機会を設けながら慎重に対応することが大切です。
降格人事の適法性や進め方に迷ったときは、早めにベリーベスト法律事務所へご相談ください。企業法務に詳しい弁護士が、就業規則や人事制度を踏まえ、貴社の状況に応じた対応をサポートいたします。
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