よくある質問

地位保全と賃金の仮払いを求める仮処分とは、どのような手続きですか?

Q

従業員を解雇したら、地位保全と賃金の仮払いを求める仮処分を申し立てられました。 この申立てはどういうものなのでしょうか。

A

地位保全仮処分と賃金仮払い仮処分は、解雇された労働者が、解雇が無効であるとしてその効力を争う場合に申し立てる仮処分です。
地位保全仮処分が認められる可能性は低いですが、解雇した従業員の生活が困窮している場合には、賃金仮払い仮処分は認められる可能性があります。
認められた場合には、認められた支払額を認められた期間について支払う義務が生じます。

【詳しい解説】

■地位保全仮処分・賃金支払い仮処分とは
解雇をされた労働者が、解雇が無効であるとしてその効力を争う場合に申し立てる仮処分には、
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①労働契約上の地位を有することを仮に定める旨の地位保全仮処分
②賃金の仮払いを命ずる内容の賃金仮払い仮処分
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とがあります。

いずれも労働者に貯預金等の資産や収入がなく、生活に困窮し切迫した状況下にある場合に、労働者の生活を訴訟に耐えうるものとするための制度です。
2つが併せて申し立てられることがほとんどですが、賃金仮払い仮処分が認められた場合には、特段の事情がない限り地位保全の仮処分は認められないことが通常です。

■保全処分が認められるとき
保全処分が認められるためには、被保全権利の存在と保全の必要性が要件となります。
被保全権利は、地位保全の仮処分については、雇用契約上の従業員たる地位もしくは雇用契約に基づく賃金請求権等、賃金仮払い仮処分については、雇用契約に基づく賃金請求権ですが、こちらは通常、問題になりません。

問題となるのは、保全の必要性ですが、これは、「争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害または急迫の危険を避けるためこれを必要とするとき」(民保23条2項)に認められます。この必要性は、仮処分によって債権者(労働者)が受ける利益と仮処分によって債務者(使用者)が被る不利益とを比較考量して、仮処分を発令しなければ労働者が被る不利益が著しく大きいときに認められると考えられています。

<地位保全の仮処分の場合>
地位保全の仮処分の場合、労働者の他からの収入の有無や従業員としての地位がないことによる不利益(社会保険の被保険者として取り扱われる利益を失うこと、社員寮に住めなくなること等)、再就職・転職の難易等の不利益を考慮し、これと仮処分によって使用者が被る不利益とが比較衡量されます。

<賃金仮支払い仮処分の場合>
また、賃金仮支払い仮処分の場合、資産の有無、他からの固定収入の有無、同居家族の収入の有無等を考慮して、給与の支払いがなくなることで生活が困窮し、本案判決が確定するのを待っていては回復しがたい損害を被るおそれがあるか否かを判断し、これと仮払いを認めることにより使用者が被る不利益とが比較衡量されます。
賃金仮支払い仮処分については、労働者は仮払いされた金銭を生活費として費消することがそもそも予定されており、さらに、無担保で発令することが通常であることから、使用者が本案訴訟において勝訴するなどして仮処分が取り消されても、その返還を受けることは困難です。
そのため、強度の保全の必要性が求められ、労働者側に資産や固定収入がある場合には、保全の必要性が否定されるか、必要性が肯定された場合でも支払額が低額にされます。

■賃金仮払い仮処分の認められる範囲
①金額
賃金仮支払い仮処分は、緊急事態から労働者を保護するという趣旨のものであるため、従前の生活水準を保証するものではなく、また、他の従業員と同様の生活を保障するものでもないため、解雇当時の賃金額や解雇前3か月の平均賃金額から減額されることが多いです。

②期間
仮払いされた金銭を後に回収することが困難であることや、労働者が他から収入を得るようになる可能性があること、本案の審理期間が1年程度であることから、支払うべき期間について、解雇後1年間または仮処分後1年間程度、本案訴訟の第1審判決の言渡しまでとするものがあります。
なお、仮処分発令時までにすでに発生している賃金については、原則としては支払いが認められていません。

■保全処分手続きの進み方
保全命令事件は労働者の申立てにより開始されます。
仮処分は、原則として、債務者(使用者)の立ち会うことのできる審尋の期日を行わなければ発令できません。これは、発令によって使用者が被る不利益が大きいためです。

東京地裁本庁では、通常、申立後1週間から2週間程度で審尋期日が設定され、その後は10日から2週間くらいの間隔で審尋期日が開かれます。
審尋期日では、主張書面や疎明資料の提出を行います。当事者尋問や証人尋問は行われず、代わりに陳述書を提出します。多くの事件で、この審尋期日において和解の話もされ、この段階で金銭和解が成立することも少なくありません。労働仮処分の終結までの期間は平均3か月ほどです。
和解が成立する見込みがある場合には、もう少し長くなる場合もあります。


■不服申立て等
保全命令に対しては、発令した裁判所に保全異議を申し立てることができます(民事保全法26条)が、保全異議を申し立てても、保全執行は停止しません。
保全執行を停止するためには、執行停止の申立て(同法27条)を行う必要がありますが、これが認められることはほとんどありません。

また、本案訴訟を提起しない場合(同法37条)、事情変更による場合(同法38条)、仮処分命令によって償うことのできない損害を生ずるおそれがあるなど特別の事情がある場合(同法39条)には、債務者は保全取消の申立てを行うことができます。
仮処分命令後に労働者が就職し収入を得た場合にはこれを申し立てることになります。この場合も、保全執行を停止するためには執行停止の申立てが必要です(同法40条1項、27条)。

仮処分が認められると、金銭の支払い義務が生じ、本案訴訟で勝訴してもその回収をすることは困難です。
加えて、申立てから非常に短期間で進められる制度です。そのため、仮処分の申立てがなされた場合には、すぐに適切な対応を行う必要があります。

解雇について紛争が生じているときにはすぐに弁護士にご相談されるのをおすすめします。

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