よくある質問

退職の意思表示は撤回できるのでしょうか。

Q

従業員が「今日限りで辞めさせてもらいます。」と言ってきて、当社の人事部長もそれを承諾したのですが、後になってその従業員が退職はなかったことにしてくれと言ってきました。 退職の意思表示は撤回できるのでしょうか。

A

退職の意思表示は撤回できない可能性が高いと言えます。

【詳しい解説】
退職の意思表示を法的にみると、
・従業員から雇用契約を一方的に解約する意思表示(辞職)である場合
・会社との合意によって雇用契約を解約したい旨の申込み(合意退職の申込み)である場合
の2つの可能性があります。

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■辞職の場合
辞職の場合、その意思表示が使用者に到達した時点で効力が生じますので、それ以後は退職の意思表示を撤回することはできません。

■合意退職の場合
他方、合意退職の場合、使用者の承諾の意思表示が労働者に到達したときに成立しますので、合意退職の申込みは、使用者の承諾の意思表示が到達するまでの間は撤回できます(福岡高判昭和53年8月9日労判318号61頁)。
使用者の承諾の意思表示がなされたというためには、承諾権限を有する者による意思表示が必要となります。
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辞職と依願退職の区別は、その意思の表示の内容やそれを行うに到る経過などに照らした従業員の合理的意思解釈によってされ、使用者の態度にかかわらず確定的に雇用契約を終了させる意思が客観的に明らかな場合には、辞職の意思表示と解されます。

ご質問の事案では、当該従業員の退職の意思表示が辞職なのか合意退職の申込みなのかについては、「今日限りで辞めさせてもらいます」という言葉の解釈をする必要があります。その際には、その言葉以外のやり取りも考慮する必要があります。

発言の前後のやり取りによって評価は異なりますが、「今日限りで辞めさせてもらいます」という言葉だけを見ると、即時に効果を求める意思が含まれ、使用者の態度にかかわらず確定的に雇用契約を終了させる意思を明示的にしているように取れますので、辞職の意思表示と解されます。

したがって、当該従業員の辞職の意思表示は人事部長に到達した時点で撤回できませんので、後から撤回することは許されません。

仮に、合意退職の申込みと解された場合には、人事部長が承諾権限を有するかにより使用者が承諾した時期が異なり、その結果、撤回できる時期が異なります。
人事部長が承諾権限を有する場合には、人事部長が承諾し、それを当該従業員に伝えた時点以降は、当該従業員は申込みの撤回ができなくなります。

人事部長が承諾権限を有するかについては裁判例も分かれています。内部的な決済手続きが必要とされている場合には、その手続きが行われ、当該従業員に伝えられることが必要となります。
本件については詳細がわかりませんが、会社に内部的な決済手続きがなく、人事部長が承諾権限を有する場合には、人事部長の承諾が伝えられた時点以降は、撤回はできません。

なお、労働者による辞職の意思表示と合意退職の申込みについて、意思表示の瑕疵があった場合には、民法の規定に従い無効、取消しとなる可能性があります。会社側から働きかけた結果として意思表示がなされた場合には、この点についても留意しましょう。

辞職でも合意退職の申込みでも、後から意思表示の有無や撤回をめぐって紛争になることがあります。
そのため、口頭で意思表示がなされた場合も、辞職届や退職願等を提出させる、すぐに合意書を作成するなど、後から意思表示があったことやその内容を確認できるようにしておくことが重要です。

対応に悩まれたとき、今後起こる事態に備えて体制を整えたいという場合は、弁護士等の専門家にご相談ください。

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