よくある質問
当社の社員は、最近、遅刻を繰り返したり、勤務時間中に奇声を発したりするなど、何らかの精神疾患と思われる状況が見うけられます。 当社の産業医の精神科医に受診して欲しいと考えていますが、法定健康診断ではない場合には、受診を命令することはできないのでしょうか。
受診を命令できる場合もあります。
就業規則で業務命令として受診命令を規定している場合は、その規定の内容が合理的であり、診察を求める合理性、相当性があれば、受診命令は違法ではありません(最一小判昭和61年3月13日労判470号6頁)。
また、就業規則等に受診命令の根拠がない場合でも、使用者が労働者に対し専門医の診断を受けるように求めることは、「労使間における信義則ないし公平の観念に照らし合理的かつ相当な理由のある措置である」として受診命令を認める判断をしたものもあります(最一小判63年9月8日労判530号13頁)。
ただし、唐突に受診命令を出すのではなく、その前提として、本人と面談をし、受診を促すなどするとよいでしょう。
【詳しい解説】
労働者がメンタルヘルスの不調を訴えた場合や、使用者から見てその疑いがある場合には、まず、現在の病状を把握する必要があります。
その手段としては、①本人との面談、②本人の主治医との面談、③産業医等の受診が考えられます。
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①本人との面談
本人が不調を訴えている場合は、まず本人と面談を行い、その原因等についても聞き取りを行い、必要に応じて診断書を提出してもらいます。
面談の目的を開始時に話すなどして、本人が不安に思ったり、不信感を抱いたりしないようにすることが重要です。
②本人の主治医との面談
本人の主治医との面談は、必ず本人の同意を得なければなりません。
面談の際には、具体的な症状、どのような内容の業務であれば任せてもよいか、休職の必要はあるか等確認し、診断書を作成してもらいましょう。
③産業医等の受診
メンタルヘルスの診断は難しく、医師によって判断が異なることも往々にしてあります。
そのため、主治医の診断に疑問がある場合や、本人が使用者と主治医の面談を拒否する場合には、産業医等を受診させることが有効です。
■業務命令として受診命令を規定している場合
受診命令については、就業規則で業務命令として受診命令を規定している場合は、その規定の内容が合理的であり、診察を求める合理性、相当性があれば、受診命令は違法ではありません(最一小判昭和61年3月13日労判470号6頁)。
■業務命令として受診命令を規定していない場合
また、就業規則等に受診命令の根拠がない場合でも、使用者が労働者に対し専門医の診断を受けるように求めることは、「労使間における信義則ないし公平の観念に照らし合理的かつ相当な理由のある措置である」として受診命令を認める判断をしたものもあります(東京高判昭和61年11月13日労判287号66頁、最一小判63年9月8日労判530号13頁により上告棄却)。
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以上は、身体的な不調についての判断です。メンタルヘルスの場合には、非常にセンシティブな問題ですから、受診命令に至るまでに、本人との面談を行い、自主的に受診するよう促すなど段階を踏むとよいでしょう。
上記の過程において得た、労働者の心身に関する情報は、高度のプライバシー情報ですので、その取得方法や管理方法等については、一定のルールを設けるなどして、慎重に取り扱わなければなりません。
■出来る限り早い段階から専門家に相談を
このような問題は、受診命令の可否の問題に止まらず、命令に従わなかった場合の懲戒処分や、業務上の支障を理由とした解雇、病状が悪化した場合の使用者の安全配慮義務違反等の問題に発展していく可能性がありますので、出来る限り早い段階から専門家に相談の上、慎重な対応をする必要があるといえます。
また、予防法務という観点からも、このような事態に直面した場合にスムーズな対応ができるよう、予め想定しうる状況を視野に入れながら、就業規則や健康管理に関する規定等を整備しておくことも有用です。
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