よくある質問
約1年前に自主退職した当社の従業員が、当社と同じ内容の事業を行おうとしています。そして、当社在職中に知った顧客情報や、当社の製品情報を利用し、事業を行おうとしているようです。 当社としては当然納得いかないのですが、どのような法的手続をとることが可能でしょうか。 また、事前に防ぐ方法はないのでしょうか。
侵害された情報の内容や、退職後の競業避止・秘密保持に関する合意の有無や内容により法的根拠は異なりますが、差止め請求と損害賠償請求を行うことができます。
事前に防ぐためには、退職後の競業避止・秘密保持について退職時までに合意しておくという方法があります。
内容によっては合意が無効となり、防止する効果が生じませんので、合意書を作成する際には事前に弁護士にご相談されるのがよいでしょう。
【詳しい解説】
既に競業がなされている場合や、なされようとしている場合、侵害された企業情報が不正競争防止法上の「営業秘密」に該当し、その侵害行為が同法所定の行為類型に該当する場合には、使用者は、不正競争防止法に基づいて侵害行為の差止めや損害賠償を請求できます。
■退職後の競業避止・秘密保持について有効な合意があるという場合
「営業秘密」には該当しないが、退職後の競業避止・秘密保持について有効な合意があるという場合は、合意に基づいて差止めや損害賠償を請求することができます。
合意が存在しないまたは当該合意が無効な場合は、不法行為を根拠に差し止めを求めることが検討できます。
■事前に防ぐための方法
事前に防ぐための方法としては、以下のとおりです。
前提として、在職中の労働者は、労働契約に付随する義務として、同種の事業を行わない義務(競業避止義務)や、企業の営業上の秘密を保持する義務(秘密保持義務)を負っています。
これに対して、退職後の労働者は、「営業秘密」については不正競争防止法により保持義務が定められていますが、それ以外の秘密保持や競業避止については、当然に義務を負うものではありません。
①退職後の競業行為を禁止する特約を定めておく必要がある
まず、退職後の競業避止義務については、退職後の労働者には、職業選択の自由が憲法上認められていますので、競業は原則として自由です。
そこで、退職後の労働者に対して競業避止義務を課すには、就業規則や個別の契約などにおいて、あらかじめ退職後の競業行為を禁止する特約を定めておく必要があります(なお、「営業秘密」を「使用」したものであれば、後述の秘密保持義務と同様に不正競争防止法の規制により制限されます)。
②過度に制限する競業避止義務は無効
競業避止義務に関する規定は、労働者の職業選択の自由を制限するものですので、過度に制限するものであるときは、合意は無効になります。
合意の有効性は、守るべき企業の利益の有無、労働者の地位、競業制限の妥当性(地域的な限定の有無、競業避止義務の存続期間、禁止される行為の範囲の限定の有無)、代償措置の有無等を考慮して判断されます。
■退職後の秘密保持義務について
次に、退職後の秘密保持義務について、不正競争防止法上の「営業秘密」の不正な使用・開示は不正競争の一類型にあたりますので、「営業秘密」については、同法により「使用」が禁じられているということになります。
他方、「営業秘密」に該当しない場合は、上述した競業避止義務と同様に就業規則や個別の契約において合意しなければ保持義務はありません。
したがって、「営業秘密」に該当するものを除けば、退職後の競業や秘密の利用を防ぐためには、事前の合意が必要です。
合意内容が労働者の自由を過度に制限するものであると、合意が無効となり、競業等を事前に防ぐ効果がなく、実際に競業等がなされたときに差止めや損害賠償請求を行う根拠にならない、という結果になってしまいます。
■就業規則等は、事前に弁護士等の専門家にご相談を
退職後の競業等を禁じる就業規則の規定や個別的な合意書を作成するにあたっては、その有効性に注意し、事前に弁護士等の専門家にご相談されることをおすすめします。
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